日本生態学会誌
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特集2 クローナル植物の適応戦略
散布型クローナル成長(ムカゴ・殖芽など)植物における分散と空間構造 : 非散布型クローナル成長(地下茎・葡匐枝・送出枝)植物との比較 (<特集2>クローナル植物の適応戦略)
井上 みずき
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2007 年 57 巻 2 号 p. 238-244

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抄録

クローナル成長には様々なタイプがある。子ラメットと親ラメットが物理的につながっている非散布型クローナル成長(地下茎や葡匐枝・走出枝)植物は、種が多く研究例も豊富である。一方で、子ラメットの定着時に親ラメットと物理的につながっていない散布型クローナル成長(殖芽やムカゴ、自切型の不定芽)植物についてその特徴はあまり知られていない。そこで、本論文では、非散布型クローナル成長と比較しながら、子ラメットの定着率、子ラメットの分散特性とクローンの空間構造、および子ラメットの長距離分散の3点について散布型クローナル成長の特性を明らかにし、その有利性と不利性についてまとめ、進化要因を考察した。非散布型クローナル成長の有利性は、第一に、資源の転流を通じたラメット間の分業により、空間的に資源が不均質に分布している環境で生育することに適している点、第二に、小面積ギャップなど点状に生じる好適環境に選択的に分散できる能力が卓越している点、第三に、局所的な混み合いが生じている場合でもラメット間の生理的統合によりクローン間で生じる競合を避けられるかもしれない点、があげられる。一方、散布型クローナル成長は、クローナル散布体が新生パッチや孤立パッチに散布され、定着できる点で有利である。加えて、ラメット間の連結の維持を困難にする生息地の撹乱が起こる場所ではラメット間のつながりの有利性が失われるため、散布型クローナル成長は非散布型クローナル成長と比べて不利ではなくなる。散布型クローナル成長は、水辺域や攪乱地などで非散布型クローナル成長の有利性が失われたときに、上記の利点が究極要因となって進化したのかもしれない。しかし、散布型クローナル成長植物の定着率、分散能力、空間構造についての研究事例は少なく、散布型クローナル成長植物の多様性が生じた進化要因については、さらなる研究が必要である。

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© 2007 一般社団法人 日本生態学会
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