日本生態学会誌
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総説
生物地球化学モデルの現状と未来 : 静的モデルから動的モデルへの展開
佐藤 永
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2008 年 58 巻 1 号 p. 11-21

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抄録

地球温暖化などといった長期間の気候変動を的確に予測するためには、大気と植生との相互作用を再現する生物地球化学モデルが必要とされる。本総説では、そのような生物地球化学モデル研究が現在どのような展開を遂げているのかレビューし、この研究分野における今後の見通しと、その中で生態学者が果たしうる役割について議論した。ここでは、生物地球化学モデルを、植生分布の与え方に基づいて静的モデルと動的モデルの2者に分け、それぞれ概説した。いずれのタイプのモデルも、炭素や水などの循環を通じて植物と物理環境とが相互作用する過程を扱っている。静的モデルでは、植物の定着・競争・死亡といった植物個体群の動態を考慮していないため、潜在植生の変化と実際に植生分布が変化するまでの間のタイムラグを予測できない。他方、動的モデルは、そのような個体群動態を扱うことによって、このタイムラグを予測する。動的モデルにおける個体群動態の扱い方は発展途上であり様々な試みが行われているが、最近では森林の空間構造を明示的に扱うことによって、光を巡る木本個体間の競争などを詳細に表現するモデルも開発されている。生物地球化学モデルの検証のために標準化された方法はまだ開発されておらず、多くの場合、現在の炭素・水フラックスや自然植生分布の再現性に基づいて検証している。今後、生物地球化学モデルの信頼性を高めていくためには、そこに含まれる諸過程の更なる改良が必要とされ、それには生態学者のますますの寄与が強く望まれている。

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© 2008 一般社団法人 日本生態学会
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