日本生態学会誌
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大島賞受賞者総説
日本における動物による種子散布の研究と今後の課題(大島賞受賞者総説)
正木 隆
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2009 年 59 巻 1 号 p. 13-24

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抄録

種子が鳥や哺乳類などの脊椎動物によって散布される樹木は、日本全体の冷温帯林を通じて森林群集内での種数が豊富であり、動物の食物資源として機能している点からも、森林の多様性を考える上で重要な存在である。種子散布効果の評価は、樹木の全生活史の枠組みの中で行なう必要があり、そのためには長期・大規模試験地を活用することが有効である。研究方法は日進月歩しており、古典的な直接観察やカスミ網による方法から、カメラトラップ、電波発信器、DNAマーカーを用いた方法などへ進歩してきており、大規模試験地において活用されることで、今までにない成果が得られつつある。特定の樹種の種子散布パターンを長期にわたって調査すると予想もしなかったパターンが観測されることがある。それを説明するためには群集全体での結実状況、さらにはより地理的に広範囲での結実状況を把握する必要があると考える。研究の進んでいる欧米に比べ、日本の場合は動物散布に関する基礎的な情報の整理がようやく始まったところであり、今後の充実が急がれる。樹上性の哺乳類が豊富な日本では、欧米の森林とは異なるユニークな研究が可能であると考える。

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© 2009 一般社団法人 日本生態学会
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