2010 年 60 巻 1 号 p. 81-88
長期にわたって栄養成長を続けるタケ・ササ類の地下茎の分枝・伸長様式は、稈やジェネットの空間分布構造を決定づけ、有性生殖時の交配様式や遺伝的多様性の維持に大きな影響を与える重要な形質であると考えられる。そこで、表土剥ぎ取り調査とDNA分析によって、地下茎の分枝・伸長様式とジェネットの空間分布構造を明らかにした例として、(1)2007年に一斉開花したチュウゴクザサ(Sasa veitchii var.hirsuta)個体群と、(2)秋田県十和田湖南岸域で1995年の一斉開花時に開花せずにパッチ状に残されたチシマザサ(Sasa kurilensis)個体群を対象として行った研究成果を報告する。調査の結果、チュウゴクザサは単軸型地下茎による分枝・伸長様式によって、ジェネットが混在する空間分布構造を形成していることが確認された。一方、チシマザサは単軸型と連軸型の地下茎をもつ混合型の分枝・伸長様式によって、広範囲にわたって特定のジェネットが空間を独占する分布構造を形成していることが確認された。このように、それぞれの種が異なる地下茎の分枝・伸長様式に従った栄養成長を行うことによって、それぞれ異なるジェネットの空間分布構造が形成されたと考えた。