2010 年 60 巻 3 号 p. 361-367
近年、企業活動における生物多様性との関わりのなかで、「リスク」という用語がキーワードとなりつつある。生態リスクは、健康や開発といった領域ごとに、生態毒性学や保全生態学などから派生する形で議論されてきた。本稿では、「リスク・コミュニケーションと企業活動」に関連する文献のレビューを行ない、論点を提示する。まず、養殖、鉱業、遺伝子組換え体(Living Modified Organism;以下LMOs)など操業領域ごとの議論を概観し、その操業領域ごとの議論から、企業活動とリスク・コミュニケーションの方法論やプロセスについての議論にまで敷衍する。リスクを巡る議論とその評価は、科学者主導のものではあるが、科学者、企業、地域住民にとって極めて倫理的な側面も含まれていることを、レビューを通じて提示する。次に具体事例として経団連のアンケート調査結果について報告を行なう。全体を通じてリスクに関わる概念の整理を行なった上で、生態学の立場から企業活動に対してどのように提言を行なっていくことが効果的なのか、実践的な課題である科学-政策インターフェースを視野に入れて、論点の整理を行なう。