抄録
アジア諸国からの越境大気汚染によって日本におけるオゾン(O3)濃度および大気からの窒素沈着量の増加が懸念されている。一方で、O3に対する樹木の感受性が窒素沈着によって変化する可能性が指摘されている。そこで、日本の代表的な森林樹種6種(ブナ、コナラ、スダジイ、カラマツ、アカマツおよびスギ)を対象に、窒素沈着量の増加に伴うO3感受性の変化を考慮したO3のリスク評価を行った。オープントップチャンバーを用いた実験でO3と土壌窒素負荷の複合影響を評価した結果、O3感受性に樹種間差異が認められ、カラマツ、ブナおよびスダジイのO3感受性はスギやコナラのそれよりも高かった。一方、O3と窒素負荷の複合影響にも樹種間差異が認められた。ブナでは窒素負荷量の増加に伴ってO3感受性が高くなったが、カラマツでは逆に低くなった。これらの結果と各樹種の分布、そして全国の光化学オキシダントや窒素沈着量のモニタリング結果を地理情報システムで統合し、O3のリスク評価を行った。その結果、O3感受性の樹種間差異と、ブナで認められた窒素沈着によるO3感受性の変化が要因となって、AOT40が高い地域とO3による成長低下率が高い地域が必ずしも一致しないと結論づけられた。