日本生態学会誌
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特集 三宅島2000 年噴火後の生態系の回復過程
植物の繁殖に関わる生物間相互作用 : ヤブツバキとメジロが三宅島の森林生態系回復に果たす役割(<特集>三宅島2000年噴火後の生態系の回復過程-巨大噴火に対する陸上生態系の応答-)
阿部 晴恵長谷川 雅美
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2011 年 61 巻 2 号 p. 185-195

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抄録

生物間相互作用を通じた森林生態系の動態解明には、安定した生態系に関する研究だけではなく、環境改変に伴う反応が生物群集にどう現れ、どのように変化していくのかを観測していく必要がある。このような研究を、通常自然生態系において行うことは困難であるが、2000年に始まった伊豆諸島三宅島における噴火活動は、大きな撹乱作用による生態系の耐性試験になっている。このため、三宅島における噴火がその生態系に与える影響を評価し、森林再生過程のモニタリングをすることは、島嶼生態系成立のメカニズムを理解するための重要な知見を提供することになるだろう。そこで、筆者らは森林の維持機構を生物間相互作用の観点から解明するモデルとして、火山ガスに対する耐性の強いツバキ科の繁殖をめぐる生物間相互作用に注目し、噴火が繁殖成功にどのような影響を与えるのかを研究してきた。本稿では、ヤブツバキとメジロの花粉媒介系を中心に紹介する。研究結果をまとめると、噴火という撹乱作用は、1)ヤブツバキ個体そのもの(開花密度、果実の生存率ほか)には負の影響を与えるものの、2)開花密度の低下は鳥類による花粉媒介の効率を上昇させ、受粉率、鳥類に付着した花粉プールの遺伝的多様性に正の影響を与える、という2点にまとめられた。さらに、ラジオテレメトリー法を用いて推定したメジロの行動圏サイズは、開花密度の低いところで広くなり、上記の結果を裏付けるものであった。つまり、ヤブツバキ-メジロの花粉媒介系は噴火のような大きな撹乱に対して耐性を持っているということができる。また、花粉媒介者である鳥類は高影響地域に様々な植物の種子を糞として運んでいくという別の相互作用を生む可能性もあるため、今後も残存する生物(相互作用系)の存在が島嶼生態系の回復にどのように繋がっていくのかを注目する必要がある。

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