日本生態学会誌
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特集:菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性
病原菌との相互作用が作り出す森林の種多様性(<特集>菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性)
大園 享司
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キーワード: 病原菌, 菌類, 更新, 森林, 種多様性
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2011 年 61 巻 3 号 p. 297-309

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抄録

病原菌は森林における樹種の多様性の維持に貢献することが知られている。寿命の長い多様な木本種からなる自然環境下の森林において、病原菌が樹種の多様性の創出・維持に果たす役割を実証するためには、病害の発生地における長期的な樹木群集の動態データが不可欠である。本稿の目的は、病害の発生地における樹木の長期的な個体群動態や群集動態に関する実証的・記載的なデータをレビューし、病原菌が森林における樹種の多様性に及ぼす影響について議論することである。シュートレベルでの枯死を引き起こすミズキの輪紋葉枯病やスイス落葉病といった病害では、病原菌が樹木個体内のシュート集団の動態に及ぼす影響を定量化し、感染が個体レベルでの物質生産に及ぼす影響を実証的に評価することは可能である。しかし、それが森林における樹種の多様性にどのような影響を及ぼすのかはよくわかっていない。その一方で、成木の比較的急速な枯死を引き起こすミズキ炭疽病、ブナがんしゅ病、ニレ立枯病、クリ胴枯病、エキビョウキンによる根腐病、エゾノサビイロアナタケによる根株心腐病などの病害では、病原菌が樹木個体群の動態や樹種の種多様性に及ぼす影響が実証的に明らかにされている。これらの病害が森林における樹種の多様性の維持に貢献しており、病原菌が森林における樹種の多様性を創出するメカニズムの1つとして機能しうることが実証されている。ただし、病原菌は必ずしも多様性の増加に寄与するとは限らず、変化がない場合や、逆に多様性が減少する場合もあり、多様性がどう変化するかの予測は現時点では困難といえる。

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© 2011 一般社団法人 日本生態学会
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