日本生態学会誌
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原著
釧路湿原大島川周辺におけるエゾシカ生息痕跡の分布特性と時系列変化および植生への影響
冨士田 裕子高田 雅之村松 弘規橋田 金重
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2012 年 62 巻 2 号 p. 143-153

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抄録

近年、ニホンジカの個体数の急激な増加により、各地で自然植生に対する様々な影響が現れている。森林に対する影響の報告が多いのに対し、踏査等が困難な湿原へのシカの影響については報告が少ないのが現状である。そこで北海道東部の釧路湿原中央部の大島川周辺をモデルサイトとし、2時期に撮影された空中写真からGISを使用してエゾシカの生息痕跡であるシカ道を抽出し、その変化と分布特性を調べた。さらに、現地で植生調査を行い、調査時よりエゾシカの密度が低かったと考えられる5年前の植生調査結果との比較を行った。また、植生調査区域でエゾシカのヌタ場の位置情報と大きさの計測を行った。その結果、調査範囲62.2ha内のシカ道の総延長は、1977年に53.6kmだったものが2004 年には127.4kmとなり、約2.4倍の増加が認められた。ヌタ場は、2時期の空中写真の解析範囲内では確認されなかったが、2009年の現地調査では大島川の河辺に11ヶ所(合計面積759m2)形成されていた。以上から、大島川周辺では30年間でエゾシカの利用頻度が上昇し、中でも2004年以降の5年間でシカ密度が急増したと考えられた。両時期とも川に近いほどシカ道の分布密度が高く、ヌタ場は湿原内の河川蛇行部の特に内側に好んで作られていた。蛇行の内側は比高が低く、川の氾濫の影響を受けやすいヌタ場形成に都合のよい立地であることに加え、エゾシカの嗜好性の高いヤラメスゲが優占する場所で、えさ場としても利用されていた。大島川周辺には既存のヨシ-イワノガリヤス群落、ヨシ-ヤラメスゲ群落が分布していた。ただし、河辺のヌタ場付近にはヤナギタデ群落が特異的に出現し、DCA解析からこの群落はエゾシカの採食、踏圧、泥浴びなどの影響で、ヨシ-ヤラメスゲ群落が退行して形成された代償植生であることが示唆された。

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© 2012 一般社団法人 日本生態学会
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