日本生態学会誌
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特集1 今こそ水田生物群集を捉えなおす―ミクロからマクロまで―
野外実験による水生動物群集解析と保全への適用(<特集1>今こそ水田生物群集を捉えなおす-ミクロからマクロまで-)
西原 昇吾
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2012 年 62 巻 2 号 p. 179-186

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抄録

わが国の水田や、周辺のため池、水路には、かつては河川の氾濫原や後背湿地、自然湿地に生息していたと考えられるメダカ、イモリ、ゲンゴロウなどの水生生物が残存する。しかしその多くが、様々な開発や圃場整備による乾田化、侵略的外来種の侵入などにより絶滅の危機に瀕している。そのため、これらの種の生息環境を保全・再生する取り組みが各地ではじめられている。このような事業の実施の前提として、保全目標となる生物をめぐる生物間相互作用の把握がとりわけ重要である。しかし、水田生態系には多くの種が存在するために、それぞれの種間の関係性をとらえることは容易でない。そのため、必要な科学的知見が得られないままに、事業が進められることが少なくない。このような、保全目標となる生物と重要なかかわりがある生物間相互作用については、野外パターンの観察で得られた仮説を、定量的な手法である野外実験によって検証することによって明らかにできる。本稿では、野外実験によって得られた結果を保全事業に適用する試みとして、大型の水生甲虫であるシャープゲンゴロウモドキの事例を紹介した。高次捕食者であるシャープゲンゴロウモドキと被食者としてのミズムシ、クロサンショウウオ幼生の生物間相互作用に関して、野外観察・野外実験を行った。その結果、成長の各段階における幼虫の主要な食物はミズムシであり、しかも幼虫の成長、生存はミズムシに強く依存していることが実証された。また、各年度、各地域における野外調査の結果からも、幼虫の食物は主にミズムシであることがわかった。これらの知見をもとに、千葉県や石川県において、休耕田の湛水化などによって食物であるミズムシの個体数を増加させることを通じて本種の保全を試みた。その結果、本種の個体数の増加が認められた。このような生物間相互作用の把握に基づく保全事例の積み重ねが、今後の水田生態系の保全においてのぞまれる。

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© 2012 一般社団法人 日本生態学会
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