日本生態学会誌
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特集1 今こそ水田生物群集を捉えなおす―ミクロからマクロまで―
鳥類の視点からみた水田地帯の群集解析(<特集1>今こそ水田生物群集を捉えなおす-ミクロからマクロまで-)
亀田 佳代子
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2012 年 62 巻 2 号 p. 199-206

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抄録

さまざまな環境がモザイク状に点在する水田地帯は、季節変化に沿った人為的影響の周期的変化によって、時空間的な境界線が極端に明確になることが特徴である。いくつかの異なる空間スケールの行動範囲を持つ生物とその相互作用によって、階層構造を持つ群集が形成されている水田地帯では、生物多様性と生態系機能の保全、それを実現するための水田管理の検討のため、時空間的に変化する水田地帯のモザイク状の環境構造と、異なる空間スケールの生息範囲を持つ生物間の関係、そしてこれらの組合せから見えてくる群集の階層構造の解明が必要である。移動能力が高く生活に複数の種類の生息場所を必要とする大型動物は、ある限られた範囲の小型生物群集に対して影響をおよぼす。大型動物の活動タイプの空間分布と小型生物群集の分布、そしてそれらと水田地帯の環境構造との対応関係を明らかにすることで、水田地帯の群集の階層性を明らかにできる可能性がある。鳥類は、モザイク状の景観構造を持つ水田地帯において、不連続で距離の離れた環境間に相互作用を生じさせることができる大型動物である。移動連結者(mobile link)としての機能を持つ鳥類は、小型生物群集に対して系外流入(allochthonous input)の作用を与える。湖沼や干潟の生物群集に対する鳥類のトップダウン効果、養分除去、養分負荷の研究、サギ類などによる水域から陸域への物質輸送の研究、越冬地である農地での鳥類の個体数変動と、遠く離れた繁殖地での植生に対するトップダウン効果の研究などから、水田地帯の群集解析に鳥類による系外流入の視点を取り入れることが必要と考えられる。鳥類を介した水田地帯の群集研究を進めるためには、1)鳥類の行動生態学的情報の把握、2)鳥類の個体群生態学的な情報の把握、3)食物の体内滞留時間の把握、4)ミクロからマクロまで質の異なる対象を統一的なパラメーターで検証できる安定同位体比分析の活用などを考慮に入れることが重要と考えられる。

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© 2012 一般社団法人 日本生態学会
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