日本生態学会誌
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特集1 今こそ水田生物群集を捉えなおす―ミクロからマクロまで―
安定同位体を用いた水田生態系の構造と機能の評価手法(<特集1>今こそ水田生物群集を捉えなおす-ミクロからマクロまで-)
奥田 昇
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2012 年 62 巻 2 号 p. 207-215

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抄録

人為的に管理された湿地生態系である水田は、群集生態学の諸プロセスを検証する野外メソコスム実験場と捉えると非常に面白いシステムである。水田は生産効率の向上を目的とした施肥を行うため、強いドナーコントロールが作用し、潜在的に栄養カスケードが起こりやすい系である。また、水田はバクテリアや微細藻類を基点とした微生物食物網が卓越した系であり、その生産物は最終的に移動性の高い魚類や鳥類などの大型動物にまで転換される。このように水田食物網に関与する生物の体サイズは1μm 未満から1m以上まで対数スケールで変化するため、個体群が変動する時間スケールも生物種間で大きく異なるという特徴をもつ。さらに、大型動物が水田と周辺生態系を空間的に連結することによってネットワーク構造が形成される。このように、異なる時空間スケールで繰り広げられる食物網の構造や機能を個体の計数や計量などの従来的な手法のみで評価するのは困難である。そこで、本稿では、食物網の有効な解析ツールとして注目を浴びている炭素・窒素安定同位体比分析を導入して、水田生態系の構造と機能、および、景観スケールから眺めた生態系ネットワークにおける水田の役割を定量的に評価する方法論を提案したい。

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© 2012 一般社団法人 日本生態学会
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