日本生態学会誌
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特集 森林の “ 境目”の生態的プロセスを探る
スギ人工林における種多様性回復の階梯 : 境界効果と間伐効果の組み合わせから効果的な施業方法を考える(<特集>森林の"境目"の生態的プロセスを探る)
清和 研二
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2013 年 63 巻 2 号 p. 251-260

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抄録

針葉樹人工林など単純化された生態系における生物多様性の復元は森林管理の重要な目標の一つである。スギ・ヒノキ・カラマツなどの人工林では、種多様性が回復可能かどうかは広葉樹の前生稚樹の密度や種数などから推定されている。しかし、間伐や皆伐などの撹乱後に侵入する後生稚樹がどれほど定着し、種多様性の回復に寄与するのか、といった評価はまだほとんどされていない。本稿ではスギ人工林に広葉樹が侵入・定着し、種多様性が回復していくプロセスを詳細に解明した研究を紹介するとともに、種多様性の効果的な回復方法を検討する。無間伐の人工林における散布種子・埋土種子・実生・稚樹の個体数や種数はいずれも隣接する広葉樹林から離れるに従って減少する。一方、間伐をすると、散布種子・埋土種子では同様の距離依存的な減少傾向が見られるが、実生や稚樹では距離依存性は小さくなる。ただし、種子散布距離の短い種では依然として広葉樹林の境界に近い所で実生・稚樹が多く距離依存性が見られるようだ。さらに間伐の強度も種多様性の回復に大きく影響する。一般的に行われている本数間伐率33%の弱度間伐に比べ、67%の強度間伐の方が光(R:FR比)や変温要求性の高い遷移初期種の発芽を促し、後生稚樹の成長を促進することによって種多様性を高めている。しかし、単木的な強度間伐は稚樹を傷つけ作業コストも高いので、帯状皆伐や列状間伐がデメリットもあるが一つの有効な手段である。また、等高線方向に20mほどの幅で行い、50mほどスギ帯を残せば、小面積のスギ林ができる。帯状・列状に伐採された所に広葉樹が更新すれば、その境界からスギ人工林の内部にかけて約10mほどまでは、広葉樹の種数も個体数も多いことが分かっているので、このような境界効果を利用すれば、より簡便に種多様性を高める事ができるだろう。

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