日本生態学会誌
奨励賞(鈴木賞)受賞者総説
パッチ状環境における生物多様性の維持機構
門脇 浩明
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66 巻 (2016) 1 号 p. 1-23

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抄録

生物群集にみられる多様性はどのように形成され、維持されてきたのか。私たちはその仕組みをより明確に理解 することを目指し、今日の生態学を築き上げてきた。その研究史は、空間に対する認識の変遷を軸に捉えることができる。空間を大きく捉えるようになったことで、生態学は、生物群集の様々な複雑性を理解することの必要性に直面した。生物群集はパッチ状環境に成立していること、そして、小さなパッチの集合が構成する、より大きな生息地の内部(パッチ間)において生じる移動分散、その結果としての空間異質性こそが多種共存の鍵を握ることが認識されるようになった。しかし、空間的な視野の拡大は、大きなスケールにおける理論的仮説と小さなスケールの実験を積み重ねてきた実証研究との間に深い溝をもたらした。「自然の縮小模型(natural microcosm)」は、大きな仮説と小さな実験の架け橋として、様々な空間や時間にわたる生物群集の複雑性に関する仮説の検証を可能とする。本稿では、自然の縮小模型を活用した3 つの事例研究を中心に、多種共存の仕組みとそれを実証するまでの道筋を明らかにする。それらを踏まえ、多種共存の可能性を支配する様々な要因がスケールに依存する理由を考察する。さらに、そのスケール依存性が私たちの生物群集に関する理解や保全・生態系管理の取り組みに対し及ぼす影響について考察する。このスケール依存性の問題によって、今後、生態学は、これまでとは異なる視点から多種共存の最も基本的な仕組みを追求することを迫られている。その仕組みとは、異なる資源を利用するといった単純なニッチ分割ではなく、空間や時間の異質性やスケールの利用様式という点からみた、より拡張されたニッチ分割である。拡張されたニッチ分割の解明に向け、多種共存の実証研究を前進させるために必要なことは、環境条件とそのスケールや異質性が、生物間相互作用に対しどのように介在し、その結果として多種共存に関与しているのかを問うことである。複数の時空間スケールにわたる検証作業をへて得られるであろう実証的知見は、自然生態系において保全すべき環境異質性やスケールと多種共存理論とを明確に結びつけることを可能とする。その時に生まれる新たな包括的枠組みは、生態系管理や保全、自然再生など広範な分野を力強く導くこととなり、私たちの未来を切り拓いていくだろう。

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© 2016 一般社団法人 日本生態学会
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