日本生態学会誌
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大島賞受賞者総説
選択伐採が熱帯林生態系に及ぼす長期的な影響
~マレーシア、パソ保護林の事例から~
山田 俊弘
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2016 年 66 巻 2 号 p. 275-282

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抄録

熱帯林の劣化は地球環境問題の一つであり、地球温暖化緩和や生物多様性保全等に関心を持つ国際機関や非政府組織等から注目を集めている。そして熱帯地域で商業伐採として行われている選択伐採(択伐)が、熱帯林劣化の主要な要因である。択伐を受けて劣化した森林は既に熱帯景観の主要な構成要素となっており、今後も択伐を受けた熱帯林が増加していくことが見込まれていることから、択伐後の森林をいかにうまく管理していくかが熱帯林の生態系機能の維持・向上の鍵を握っている。択伐を受けた森林は 長い時間をかけて択伐前の状態に戻ると期待されるが、択伐を受けた森林が伐採前の状態に戻るためにはどの程度の時間が必要なのであろうか。本稿では約60年前(1950年代後半)に択伐を受けたマレーシア、パソ保護林で得られたデータを用いて、森林構造・林冠構造、光環境、動態パラメーター・個体群成長速度、バイオマス、樹木の生物多様性の視点からこの疑問について考えた。地上部バイオマスは伐採後50年ほどで伐採前の水準近くまで回復していた。一方で択伐を受けた森林の森林構造・林冠構造、光環境、動態パラメーターや個体群成長速度は未伐採の森のそれらと区別することができた。また樹木の生物多様性は択伐を受けた森林のほうが未伐採の森林よりも低く、森林を構成する種も両森林間で大きく異なっていた。生物多様性は伐採後60年程度では十分回復できず、その回復にはとても長い時間がかかることが明らかとなった。

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© 2016 一般社団法人 日本生態学会
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