日本生態学会誌
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特集2 生態学分野における状態空間モデルの利用
シカ類の個体群動態の推定における状態空間モデルの有用性
飯島 勇人
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電子付録

2016 年 66 巻 2 号 p. 351-359

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抄録

本稿では、近年世界各地で増加しているシカ類の個体群動態を推定するために収集されるデータと適用される推定方法、そして推定方法の一つとして状態空間モデルを用いる利点を整理した。狩猟対象であるシカ類において最も収集が容易なデータは捕獲数であり、その齢や性が明らかな場合にはコホート解析やSex-Age-Kill(SAK)モデルを適用することで個体群動態の推定が可能となる。しかし、これらの手法は個体数を推定する空間を明示できない上、推定に用いることができる量と質のデータを得るためには労力と予算がかかる。別なデータとして、シカ密度と関連する指標がある。シカ密度指標には様々な種類があるが、シカ密度を直接示すことができる指標は少ない。また、指標の観測に大きな誤差が伴う。そのため、シカ密度指標から直接は観測できないシカ密度を、観測誤差と生態的過程に関する誤差を分離して推定できる状態空間モデルがいくつか開発された。研究によっては、5 kmメッシュ単位でのシカ密度の時空間変動を推定することが可能になった。今後、状態空間モデルはシカ類の個体群動態の推定において、一般的な枠組みになると考えられた。

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© 2016 一般社団法人 日本生態学会
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