2016 年 66 巻 2 号 p. 391-395
ボルネオ島の北西部のランビルヒルズ国立公園(マレーシア、サラワク州)は、主に低地フタバガキ林で構成される広大な熱帯雨林に覆われている。ランビルヒルズ国立公園の熱帯雨林には、生物多様性がきわめて高い生態系であるとされている東南アジアの熱帯雨林の中でも、特に卓越して種多様性の高い生物群集が生息している。また、ランビルヒルズ国立公園は、平均すると数年に一度の不規則な間隔で訪れる短い時期にさまざまな樹種が開花期を集中させる、東南アジアの熱帯雨林地域に特有の一斉開花現象が見られる。生物学的に興味深い多くの問題が潜むこの地の貴重な熱帯雨林に、馬日米の共同研究プロジェクトによって、野外調査のための研究拠点が1990年代の初め頃から設けられ、その後、高い林冠部での調査や観察を容易にするための林冠観測システムが拡充されてきた。研究プロジェクト参加メンバーの何名かは、それらの施設を利用して、熱帯雨林においてきわめて高い生物多様性が生み出され維持される要因・機構の解明にとって不可欠な、林冠に生息する節足動物群集を対象にした生態学研究に20年以上取り組んできた。本特集では、この間に蓄積された研究成果のなかから、特に2009-2013年に進展した研究成果を紹介するとともに、熱帯雨林の林冠に生息する節足動物群集に関するこれまでの研究の展開を概観し、今後の課題について論じた。