落葉広葉樹クリの開花フェノロジーは、個体内で雄花→雌花→雄花の順に開花が進む二重雌雄異熟性(duodichogamy)である。しかし、自然個体群内におけるクリの開花パターンとその開花様式の適応的意義はこれまでに明らかになっていない。本研究では、自然個体群におけるクリの開花フェノロジーを、調査用やぐらを使って8個体について詳しく調査した。さらに49個体について2種類の雄花の開花期間を調べた。詳しく調査した8個体の内、5個体では雄花群→雌花群→雄花群の順に開花し、他の3個体では先に咲く雄花群、後に咲く雄花群あるいは雌花群の、いずれかの花が同時に開花した。また、8個体の全てにおいて2種類の雄花群と雌花群の開花時期は互いに重複していた。さらに、8個体の開花数をプールして個体群内の開花フェノロジーを見ると、雄花群と雌花群の開花は、2種類の雄花群を足し合わせた時に、より一致の程度が高くなった。また、個体群内における全57個体の開花時期はそれぞれ大きく重複していた。これらの結果から、自家不和合性の樹木クリの開花フェノロジーは、自家受粉の回避というよりは、他家受粉の促進に寄与していると考えられた。