日本生態学会誌
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特集:熱帯林における球果類優占のメカニズム
熱帯山地林における球果類の分布と更新
澤田 佳美 相場 慎一郎清野 達之北山 兼弘
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2017 年 67 巻 3 号 p. 323-330

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抄録

世界の熱帯における球果類の分布を見ると、撹乱跡地や貧栄養土壌を除くと山地に限定される。熱帯山地林で、球果類がどのようにして広葉樹と共存しているのかについては、未解明な点が残されている。広葉樹との共存に重要な要因の1つと考えられる球果類の更新について、定量的なデータがそろっているボルネオ・キナバル山の研究成果を中心に説明した。キナバル山に設置された調査区における球果類の優占度は、他の熱帯域における傾向と同様、山地林の、特に蛇紋岩地で高かった。球果類の更新について、そのサイズ構造から検討すると、山地林以上の非蛇紋岩地では撹乱に依存した更新と考えられる山型、蛇紋岩地では持続的な更新が行われていると考えられる逆J字型を示した。球果類と広葉樹の成長速度を比較すると、標高1700 m以上の非蛇紋岩地では、ギャップ下など光条件が良いところでのみ球果類の成長速度は広葉樹と同等以上となるのに対し、蛇紋岩地では光条件に関わらず広葉樹と同等以上となった。球果類の単位面積当たりの実生・稚樹数は、高標高や蛇紋岩地で多い傾向がみられた。これらの立地では林床の光条件が良好となる傾向があり、こうした光環境の改善によって球果類の実生・稚樹数が生育しやすくなったと考えられた。以上のことから、球果類の更新パターンは標高や地質によって異なり、低地林ではほとんど更新できていないが、山地林以上の非蛇紋岩では撹乱に依存して更新すること、また、蛇紋岩地では連続更新していることが示唆された。こうした更新パターンの違いは、各環境条件での成長や実生・稚樹の定着における広葉樹との競争によって生じていると考えられた。

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