日本生態学会誌
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特集:熱帯林における球果類優占のメカニズム
球果類の成長・養分利用特性
:広葉樹との比較
青柳 亮太 多賀 洋輝
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2017 年 67 巻 3 号 p. 347-353

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抄録

現在地球上の多くの森林では広葉樹が優占し、球果類が優勢となるのは貧栄養土壌などストレスが強くかかる環境に限られている。本稿では、こうした分布パターンを説明する仮説として重要とされてきたSlow seedling仮説に関する研究例と、その背景となる球果類と広葉樹の生理的特性の違いについてレビューを行った。近年メタ解析によって、富栄養環境の成長速度では広葉樹が球果類を上回る一方、貧栄養環境の成長速度では球果類と広葉樹に差がないことが示され、Slow seedling仮説が部分的に支持されることが示されている。また、貧栄養環境で球果類が成長速度を維持するためには、養分の利用効率(吸収した養分あたりの成長速度)を高める必要がある。そのメカニズムとして、球果類が低養分濃度・長寿命の葉をもつほか、材の養分濃度が低く材生産に必要な養分要求が小さいことが重要である可能性が示された。一方、本レビューによって、これまでの研究には研究対象に大きな偏りが見られることがわかった。例えば、広葉樹と球果類の比較研究の多くは高緯度の温帯地域で行われ、低緯度の熱帯地域では少ない。また、これまで球果類との比較対象として研究されてきたのは落葉広葉樹が多く、常緑広葉樹と球果類の成長や生理的特性の比較はほとんどおこなわれていない。今後、球果類と広葉樹の成長・養分利用について一般的な傾向を明らかにするためには、これらの点に焦点を当てたデータの蓄積が必要だろう。

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© 2017 一般社団法人 日本生態学会
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