日本生態学会誌
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特集: 生態学と政策・制度をつなぐコミュニケーションのデザイン
生物や価値観の多様性を扱う教育プログラム「宇宙箱舟ワークショップ」の 実践を通じて生態学と社会のつなぎ方を考える
水町 衣里
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2018 年 68 巻 3 号 p. 189-197

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抄録

生態学者が社会と関わる機会は、今後ますます増えることが想定される。政策形成に関与する機会、地域住民との協働の機会などが考えられる。本稿では、筆者が開発に関わった教育プログラム「宇宙箱舟ワークショップ」の開発と実践事例を紹介しつつ、生態学と政策・制度をつなぐために、生態学コミュニティが多様な立場の人々との対話に臨む際に認識すべきことや今後改善すべきことについて論じたい。この教育プログラムは、学校現場での利用を想定して開発された。児童・生徒たちに、1)科学に関わる事柄の中には、「科学だけでは解決できない課題」や「不確実性が含まれる課題」が存在するということを提示する科学的情報そのものに不確実性が含まれるといったことや、科学という観点だけでは解決できない課題もあるという側面を共有すること、そして、2)常識や日常的な価値観を相対化し、1つの課題を複数の観点から捉える機会を提供することを目指した教育プログラムである。多様な価値観を持った人々との議論の場を模擬的に体験できるようになっている。生態学に関わる社会的な課題には、科学だけでは解決できない課題が多い。「答え」がないからこそ、多様な観点を持った人々の間での対話が重要になってくる。今後、本プログラムの参加者や実践者からのフィードバックを教材のよりよい改良に向けて活用したい。と同時に、これらフィードバックを生態学コミュニティにも返していくことで、科学的知見を提供する側に立つ生態学コミュニティとその外側の世界とのコミュニケーションの改善に寄与できるのではないかと考えている。

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© 2018 一般社団法人 日本生態学会
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