古くから研究が行われている欧米の氷河は冬期の降水によってその質量を得て(涵養されて)いるのに対し,アジア高山域の氷河は夏期の降水によって涵養されている.このため,降水による涵養と融解による消耗が同時期に生じ,質量収支の様相が欧米の氷河と異なると考えられていたが,降水の集中する時期の違いが氷河の質量収支に与える具体的な影響についてはよくわかっていなかった.しかしながら1970年代以降のヒマラヤ・チベットにおける観測・解析・モデル研究によって,1.融解期の降雪が日射に対する反射率(アルベド)を高く維持し氷河の融解を抑制していること,2.その一方で気温上昇に対しては,降水が雪として降らなくなることによるアルベドの低下によって,冬期に降水が集中する氷河よりもより多くの融解がおこること,が明らかにされてきた.本稿では,夏期に降水が集中する気候が氷河の質量収支に与える影響について,これまでの研究を概説する.