サービソロジー
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Print ISSN : 2188-5362
SIG報告
サービス学ロードマップ
新井 民夫
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2014 年 1 巻 1 号 p. 34-35

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1. はじめに

サービス学は新しい学問分野であると同時に,社会生活に密接に結びついた学問分野である.実サービスが提供されることで,サービスの本質があきらかになり,サービス理解が進むことで,サービスの質も生産性も高まる可能性が増す.すなわち,実サービスの発展とサービス学の体系化とは表裏一体である.そこで,サービスの技術的発展を示す技術ロードマップを作成することで,サービス学の発展を加速することを目的として,本SIGを平成25年11月に立ち上げた.委員長新井民夫,副委員長竹中毅,委員持丸正明,戸谷圭子,新村猛と5名の小規模SIGである.

2. サービス学ロードマップの作成

サービスに関連するロードマップには2つの活動がある.一つは日本学術会議の「夢ロードマップ」であり,いまひとつは経済産業省の技術ロードマップの作成活動である.以下に,それぞれの成果の概要を示す.

  • (1)日本学術会議「夢ロードマップ」作成活動

日本学術会議総合工学委員会サービス学分科会との共同作業として,「理学・工学分野における科学・夢ロードマップ2014」の作成を行った.本ロードマップの目的は,まだ体系化が進んでいないサービス学の分野で技術予測が可能なことを示すことである.つまり,日本学術会議内においてサービス学の社会的重要性を認識してもらうことを含んでいる.

さらにこれを基盤としてサービス学の戦略技術ロードマップを長期的に作成する.

この作成作業では,技術を,①サービス論理,②行動理解,③設計適用と大別した.サービス理論では,サービスの定義や性質に関する理論化や法制度整備が進むとした.顧客・従業員を中心とするステークホルダーの行動理解は,ICTを使った測定技術が当面進展する.その無闇な拡大を制限する形で,匿名化技術や「消去する権利」への対応などが進むと予測している.設計適用ではICTによるビジネスの展開が図られるのは当然だが,社会に望ましいサービスを実現するための制度設計の方法論が確立に向かうとしている.一方で,モノ製品のサービス化において製品利用過程を意識した価値創造が動き始めると予測している.このマップは現在,取りまとめ作業中であり,2014年夏過ぎには公表されよう.

  • (2)経済産業省 技術戦略マップ(サービス工学分野)策定委員会

経済産業省では2005年から,国家的に重要な産業技術のロードマップを俯瞰する「技術戦略マップ」を策定・公表しており,サービス工学分野については2008年から始めている.初年度2008年版(2008年5月に発表,2007年度の活動)には「観測・分析・設計・適用」の4段階で技術を分類構成した.翌2009年版にはヘルスケアサービスを事例に4段階の技術要素を詳細化した.2010年版では全面的に改定し,インタビューと文献調査に基づく技術課題の分析から,技術マップの中項目レベルでの技術の展開を5 年単位で予測した.また,発展の見通しをより良く理解してもらうために,具体的なサービス分野(ヘルスケア・小売・飲食・金融)における技術ロードマップを参考資料として追加している.

その後も,経産省は小規模な改訂を進めてきたが,2013年度に入ってから,ここ数年のサービス工学の発展を組み込むために大改訂を行っている.本SIGのメンバー(新井・持丸・戸谷・竹中)はこの策定委員会に参加している.

この活動では,技術マップでの大項目を,①戦略立案支援技術,②顧客接点技術,③データ基盤技術と3つに分けた.従来のサービス工学の技術マップの「観測・分析・設計・適用」を,顧客接点技術と位置付け,新たに,上位層に戦略立案支援技術を,基盤層にデータ基盤技術を加えた3階層構造の技術マップを提案した.サービス学は文理融合の学術分野であり,その一角を担うサービス工学も,企業や社会のあり方からその必要性が議論されるものであり,経営・経済学や社会学とは切り離せない関係にある.そこで,経営戦略の目標設定や指標策定などの技術は戦略立案支援技術として捉え,セキュリティやプライバシー保護,ネットワーク技術などは,サービス工学独自と言うよりも汎用的なデータ基盤技術として整理した.

5年前の技術マップと比較すると,顧客行動の観測についての技術が一応の発展を遂げ,今までより高いレベルでのサービス提供を実現するための技術とその準備としての戦略策定がより強く求められている.サービス学とサービス工学とは異なるが,改訂版は技術ロードマップに社会科学的視点を取り入れることで両者に役立つものとなっている.

3. ロードマップの方向付け

サービス技術の進展は部分的に製造業での科学的進展の歴史と類似する.19世紀の最後にF. W. Taylorが科学的管理法を提案し,作業の標準化から作業記述を可能にし,その後の計算科学の導入に繋がった.サービス業においても同様にマニュアルによる作業標準化が進み,品質を保証すれば,顧客満足度は高くなると信じられたときもあった.しかし,それは供給者側の論理である.サービスの観測・分析・モデル化を経て,提供側の論理を構成すれば,サービス提供業として一層の高度化が確かに実現するであろう.だが,それだけでは不十分である.サービスを提供者と顧客との間の価値共創であると定義するなら,その共創過程,インターラクションを技術的にサポートすることが求められる.サービスを受ける側の論理を技術として表現し,利用可能にしていくことが求められる.これらの研究は主にサービス・マーケティング,サービス・マネジメントなどの経営学分野が学術として担ってきた.しかしこれからは,経営学や行動科学の知見を技術として利用可能にしていく努力が必要なのである.

サービスは人間活動である.社会の経済活動や文化に基づいているため,上記の展開は経済状況や社会の文化的傾向に強く影響を受ける.自然科学に立脚する技術とは異なり,統一された単一の論理に収束することはないと思われるが,サービスについての世界観と行動原理とが大きく変化する可能性は高い.SIGメンバーはサービス学技術ロードマップがこういったパラダイム・シフトの予測に役立てば素晴らしいと考えている.

4. おわりに

本SIGの活動の中心は,上述2つのロードマップの作成と学会独自の改訂作業,そしてロードマップを通じたサービス技術の普及展開である.ロードマップは未来予測であるので,理論や技術要素がどのように社会に受け入れられるかを表現することを通じて議論できる.それゆえ,理工系と経営系,あるいは学術研究者とビジネス指導者など,立場が異なる人々の間の相互理解に,ロードマップを用いることができる.将来的にはロードマップを背景に長期的視点を持った標準化活動,技術開発SIGの設置へとつなげていきたい.興味のある方々の積極的な参画をお願いする.

最後に,本文の作成に対する戸谷圭子委員他にその支援に感謝する.

著者紹介

  • 新井 民夫

70年東京大学卒,東京大学工学系精密工学専攻教授を経て,12年より芝浦工業大学教授.自動組立,移動ロボットの協調,生産システムの研究に従事.2008~10年精密工学会会長,2012年よりサービス学会初代会長.

 
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