2014 Volume 1 Issue 2 Pages 42-43
2004年12月にアメリカ競争力評議会がまとめたInnovate America(通称,パルサミーノ・レポート)でサービスサイエンス創出の必要性が提言されてから,NSFでは関連する領域の研究開発プログラム (Service Enterprise Systems(SES)等)の支援をしてきた.また,これまでにサービスにおける技術(1988年),ビジネスにおけるサービス研究のインパクト(2003年)等のワークショプを実施してしてきた.
今回のワークショップは,4月10日から11日にWashington, DCのKeck Center of the National Academiesで開かれた.目的は,サービスイノベーションのための研究アジェンダを議論することであった.全米の大学におけるサービスサイエンスの研究者を中心に,企業・政府関係者など幅広く研究開発に携わっているメンバーが集まった.また,ヨーロッパおよびアジアから研究者が参加した.以下では,ワークショップでの議論の概要を述べる.
最初のセッションでまず,NSFのディレクターであるGrace Wangが,ワークショップの目的とサービスイノベーションにおける視点を提示した.アメリカにおいてサービスはGDPの約80%を占め,各産業の境は明確ではなくなってきており,そのためサービスイノベーションは十分に理解されていない.技術により益々結合する人間を中心としたシステムを,どのように革新するのか?これが彼女の問いであった.
その議論のためには,これまでのサービスプロバイダー・顧客というモデルから脱却し,全体を包含するサービスシステム視点が重要である.ワークショップでは,「人間中心のサービスシステムに関する根本的であり基本的なリサーチクエスチョンは何か」について議論した.
人間中心のサービスシステムとは,人・情報・組織・技術からなる,相互に便益を得るシステムである.例えば,ホスピタリティ,ヘルスケア,オンラインショッピング,金融システム,交通システム,政府のサービスなど多様なサービスシステムがある.
また,HCSSにおいてすべてのインタラクションは,事前に規定する事はできない.HCSSのパーフォーマンスは,単に人・情報・組織・技術の構成によって決定されるのはなく,それらのインタラクションや独自の活動などによる創発性の考慮を必要とする.さらに,エマージングな状況下においても効率的に動く事が求められる.HCSSは重要であるが,我々のHCSSに関する知識は限られている.
実際に,モデル化するためにどのようなデータが必要かといった基本的な理解も十分ではない.ネスト化された,多様なスケールを持つネットワーク構造のような複雑系システムをモデル化するためには,新しい表現形式や形式化が必要であろう.HCSSが成長し,技術がより洗練されてくる限り,我々には新しいスマートな技術を活かしたよりよいシステムをデザインし,その発展のペースを保つため必要なスキルや産業を作り上げていく事が求められている.
〔戸谷圭子(サービス学会理事)〕