サービソロジー
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特集:「公共サービスにおけるイノベーション創出のキーワード」
特集「公共サービスにおけるイノベーション創出のキーワード」にあたって
山下 倫央
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2015 年 2 巻 1 号 p. 2-3

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1. 特集の意図と構成

現在,日本では国や地方公共団体が厳しい財政環境に直面しているため,実効性が高く持続可能な公共サービスが求められている.日本では諸外国では類のないスピードで人口減少や少子高齢化が進み,公共サービスの安定的な供給はかつて経験のしたことのない危機的状況に直面している.

その一方で,多くの先進国でも同様に人口減少や少子高齢化が進んでいるため,いち早く公共サービスにおいてイノベーションを創出し,状況に適応することができれば,日本型公共サービスモデルが世界を席巻する可能性もある.

公的資金によって運営され,市場メカニズムにさらされてこなかった公共サービスは,これまでとは大きく異なる運用方法や体制を取る可能性があり,サービスイノベーションのフロンティアであるといえる.公共サービスにおいて,今後新たな市場や産業を生み出す可能性を秘めている.

本特集では,公共サービスにおけるサービスイノベーションを創出するためのキーワードを探るため,まずは公共サービスの変遷や新たな公共サービスの分類といった俯瞰的な分析・分類事例を紹介する.さらに,交通,教育,まちづくりといった公共サービスの複合領域における事例を取り上げて,サービスイノベーションの創出要因を探る.また,サービスイノベーションの構造化・共有に向けた取り組みも紹介する.

本特集では,公共サービスにおけるイノベーション創出の研究や実践に携わる方々からご寄稿いただいた.以下,本特集の構成について解説する.

1.1 公共サービスイノベーションのこれまでとこれから

公共サービスイノベーションにおける従来の流れと今後の展開を把握していただくために,経済産業研究所の喜多見富太郎氏と流通科学大学の森藤ちひろ氏にご寄稿をお願いした.

喜多見氏の「公共サービスイノベーションの変遷と改革の諸相」では,自治体における公共サービスイノベーションについて,戦後改革期から地方行革大綱における「古典的行革」,さらに公共サービス改革へ至る変遷を取り上げている.さらに,自治体における公共サービスイノベーションの設計は,公共サービスの効率化という目的を本源的に有している「効率性の原理」と自治体組織と地域社会の境界を再設定し,双方の機能を相乗的に結合させる「協働性の原理」から読み解くことができると主張している.自治体における公共サービス改革を,公共サービスの制度設計というミクロレベルと,公共の空間設計というマクロレベルの両面から展望している.

森藤氏の「新たな公共サービスの分類」では,イノベーション創出の視点から新たな公共サービスの分類を示した後,公共サービスの品質向上のための実践的な方法としてソーシャル・マーケティングを取り上げ,適用事例を紹介している.従来の公共サービスに対する提供主体と需要主体による分類の問題点を示し,新たな公共サービスの分類として,サービスの性質による分類,需要主体への動機づけの程度による分類,これらを合わせた分類を提示している.公共サービスの品質向上のためには,人々に行動変容を促すソーシャル・マーケティングの考え方を用いることが有効であるとして,ソーシャル・マーケティングの考え方やフィンランド政府が国民の健康を回復するために行ったFat to Fit 運動を紹介している.

1.2 交通,教育,まちづくりにおける公共サービスイノベーション

次に,交通,教育,まちづくりといった公共サービスの具体的な分野において,公共サービスイノベーションの動向を探るために,はこだて未来大学の松原仁氏と田柳恵美子氏,関西学院大学の山本昭二氏,富山市役所の京田憲明氏にご寄稿をお願いした.また,京田氏には富山市のコンパクトなまちづくりの背景についてお話を伺った.

松原氏・田柳氏による「公共交通の課題解決と今後の展開」においては,危機的な状況にある公共交通システムの問題点とそれに対する取り組み,さらに公共交通の改革を阻む阻害要因を論じている.近年の公共交通が全国的に縮小傾向にある状況を述べた後,公共交通の現状に対する再生の試みが成功した事例として,北海道帯広市のバス会社である十勝バスと,埼玉県川越市のバス会社であるイーグルバスの事例を紹介している.また,公共サービスイノベーションともいえる新たな公共交通システムの導入が阻害されてしまう要因をあげて,自家用車から公共交通や自転車や徒歩へと変革していくモビリティマネージメントの重要性を示している.

山本氏による「西宮市大学交流協議会の活動」においては,大学コンソーシアムである西宮市大学交流協議会の活動を紹介し,大学の地域連携から生じた「公共サービス」ついて論じている.西宮市大学交流協議会は2001年に設立され,共通単位講座,市民対象講座,キャンドルナイト・コンサート,仙台七夕プロジェクトといった社会連携活動・ボランティア活動を行っている.西宮市が西宮市大学交流協議会を資金面においてもバックアップしており,安定した運営を実現しており,今後のまちづくりの一翼を担う組織として期待される.

京田氏による「コンパクトシティ戦略による富山型都市経営の構築」においては,富山市のまちづくりが職員・市民の意識改革から始まっていることが述べられており,「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」は,公共交通の活性化,公共交通沿線地区への居住促進,中心市街地の活性化を始めとする,数多くの公共事業によってなされたことが分かる.今後の課題として,多くの都市に共通する高齢化対策や空き家対策の必要性に触れており,示唆に富んでいる.

産総研本村氏と山下がおこなった京田氏へのインタビュー「富山市におけるコンパクトなまちづくりの背景」では,京田氏に富山市のコンパクトシティ構築の経緯と成功要因を伺った.公共サービスイノベーションともいえる成果をあげることができたのは,職員が連携すること,市長の方針がぶれないこと,長期的な視点を持つこと,公共事業の乗数効果を意識すること,といった組織作りに於けるノウハウの重要性を伺った.

1.3 公共サービスイノベーションの構造化と共有

特定の分野にとらわれず,公共サービスイノベーションに向けた活動の構造化・共有を支援する取り組みを紹介するために,プラチナ構想ネットワークの田中信吾氏にご寄稿をお願いした.

田中氏による「『プラチナ社会』創造のためのキーポイント」においては,イノベーションによる新産業を創出し,アイデア溢れる方策等により社会や地域の課題を解決する優れた取り組みを収集し,成功要素で構造化し,横展開を可能とする仕組づくりを紹介している.また,プラチナ大賞を受賞した課題解決の事例として,千葉県柏市の豊四季台団地の「長寿社会のまちづくり」や島根県松江市海土町の「島前高校魅力化プロジェクト」等を紹介している.これらの成功した課題解決の取り組みには,機能する仕組を作り,異質なものを繋ぐことでイノベーションに繋がる化学反応を起こし,お金が回る仕組,ビジネスモデル化して,それを強力に牽引するキーマンが存在するという共通要素があるとまとめている.

2. おわりに

公共サービスイノベーションの対象は多岐に渡り,実務者,研究者,サービス提供者・受給者として様々な関わり方がある.公共サービスはイノベーションの途上にあるが,今後新たな市場や産業を生み出す可能性がある.本特集をきっかけとして,サービス学会員の皆様が公共サービスイノベーションに興味を持っていただければ幸いである.

著者紹介

  • 山下 倫央

2002 年北海道大学大学院工学研究科システム情報工学専攻 修了博士(工学).2003 年産業技術総合研究所 サイバーアシスト研究センター 特別研究員.現在,国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人間情報研究部門 主任研究員.社会システムシミュレーションに関する研究に従事.

 
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