サービソロジー
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会議報告
S-Dロジックの進化と可能性
庄司 真人
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2015 年 2 巻 2 号 p. 58-59

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1. はじめに

2015年3月5日に,明治大学駿河台キャンパスにあるリバティータワーにおいて,サービス・ドミナント・ロジック(以下,S-Dロジック)に関する講演会を行った.この講演会は,2011年6月に設立された明治大学サービス・マーケティング研究所および2011年から4年の研究期間で行った「わが国企業の文脈価値形成プロセスの解明」の成果報告を兼ねたものであり,S-Dロジックの提唱者を招聘し,一般にオープンにしているものである.

2. S-Dロジックの現状と報告会の目的

サービス学会に所属している研究者や実務家の方々であれば,2004年以降のサービス研究がS-Dロジックによって推進されていることは周知の事実であろう.2004年にアメリカおよび世界最大のマーケティングの機関であるアメリカマーケティング協会(AMA)が発行する専門誌,Journal of Marketing誌に掲載された”Evolving to a new dominant logic for marketing.”(1)がS-Dロジック研究の端緒となる.この論文は,従来の取引において強調される商品やサービシィーズ(無形財)ではなく,企業や顧客によるナレッジやスキルのアプリケーションをサービスと定義し,1980年代以降のマーケティング研究がグッズからサービスへとシフトしていることを示したものである.

S-Dロジックが提唱されてからしばらくは,その妥当性について検討され,同時にサービス概念についても議論されてきたが,彼らの2004年の論文だけでなく,その他の論文も数多く引用されることから,多くの研究者に影響を与えてきた.世界的に見ても,また我が国の多くの研究者からもS-Dロジックについて,またはS-Dロジックを元にした研究が盛んに行われるようになってきている.

このような国際会議だけにとどまらず,国内外の多くの研究会や学会等でサービスについて取り上げられている.我々の研究グループでは,特にS-Dロジックの提唱者であるLusch教授およびVargo教授の主張を元にしながら,発展を試みている.S-Dロジック研究の多様性が進展する中で,ともすれば表面的な理解だけ,もしくは単なる研究の流行として取り上げるのではなく,その可能性や発展性について,提唱者との連携を試みながら,研究を進めている.

そこで,我々の研究グループでは,このようなS-Dロジック研究を発展させるため,S-Dロジックに関するアジア圏発となる国際フォーラムを実施した.Forum on International Markets and Institutional Logics(FIMIL)というS-Dロジックの拡張を議論する国際フォーラムを明治大学を会場にして2012年9月に開催している.S-Dロジックの提唱者であるアリゾナ大学教授のRobert F. Lusch氏とハワイ大学マノア校ディスティングイッシュト教授(Disthingished professor)であるStephen L. Vargo氏および明治大学商学部の井上崇通教授および筆者の4名のco-chairにて開催した.

FIMILでは現在,S-Dロジックにおける新しい核概念となるInstitutionが議論された.そして,2014年にLusch教授およびVargo教授による著書”Service-Dominant Logic: Premises, Perspectives, Possibilities”(2)が出版されたこと,そして,我々の研究グループによる科研費の研究プロジェクトが最終年度となったことを踏まえてS-Dロジックの発展にフォーカスをあて,Tokyo Service-Dominant Logic 2015として実施している.

3. 報告会の内容

まず会に先立ち,今回の講演会の後援をサービス学会から受けていたので,新井民夫会長にご挨拶を頂いた.それからVargo教授,Lusch教授および井上教授から報告頂いた.

  • 講演1 :    Foundations and Extensions Of Service-Dominant Logic
  • 講演者 :    Stephen L. Vargo(University of Hawaii at Manoa)

S-Dロジックでは2004年の論文およびそれ以降の論文での修正によって10の基本的前提が存在している.2014年の書籍では,これを4つの公理へと整理している.

Vargo教授は,このS-Dロジックの展開を踏まえて,公理5の可能性について言及し,S-Dロジックが未だに発展途上であることを報告している.

そして,S-Dロジックの研究フロンティアとして,(1)資源統合とサービス交換が行われる「サービス・エコシステム」,(2)エコシステム内でアクターの行動を統治する「制度(institution)」,(3)技術要素と市場要素を橋渡しする「イノベーション・戦略」について説明があった.

  • 講演2 :    The Service Ecosystem Perspective: An Action Agenda
  • 講演者 :    Robert F. Lusch(University of Arizona)

第2講演は,Lusch教授によるサービス・エコシステムを中心としたものである.Lusch教授は,古生代カンブリア紀のカンブリア大爆発に例えて,現代のような情報社会をデジタル・カンブリア大爆発と捉える長期的視点からアプローチし,その傾向について捉えている.大量のデータが生みだされることによって,これまでとは異なるように人々の結びつきが変わり,さらにそれが分析されるようになってきている.

Lusch教授による主張は,このような時代では,世界を予測するのが困難となるため,人間,仮説思考,ミームとヒューリスティクス,協働と相互主義,分裂的になる必要があるとする.

そこで,S-Dロジックの研究課題として,(1)適応的プラクティス,(2)エコシステム内のインスティテューションの理解,(3)プラットフォームとしての組織への変換のアプローチの必要性を主張していた.

  • 報告 :    S-Dロジックの進化と可能性
  • 講演者 :    井上崇通(明治大学商学部教授)

井上教授は,我が国におけるS-Dロジック研究への関心について,その傾向をまとめ,研究上の重要性が向上しているということを整理した上で,マーケティング研究,消費者行動研究およびサービス研究等での検討の必要について論じた.

さらに,S-Dロジック研究のポイントとして,(1)プロセスとしてのマーケティング,(2)文脈価値,(3)資源への視点の転換,(4)価値共創者でありアクターである企業と顧客,(5)サービス・システムおよびサービス・エコシステムを取り上げた.

その上で,S-Dロジックおよび文脈価値を分析する視点として,価値共創と共同生産の相違を元にした分析の枠組みとそのポイントについて言及があった.

写真1 講演後の集合写真

4. おわりに

S-Dロジックもこの10年で大幅に進化してきている.その中核となるのはサービス概念であり,研究当初はサービスの意義や必要性に関する議論が中心であった.しかし,近年では,サービス・エコシステムやインスティテューションといったよりマクロ的な視点でのサービス研究への示唆とアクターによる資源統合というサービスを起点とした研究の促進の必要性が,3名の研究者の報告を通じて明らかになったところである.

提唱者であるVargo教授およびLusch教授とも,我が国日本からのサービス研究の発信を熱望しており,今回は両者からの「価値提案」となろう.この講演会に参加された方々から,概念的な研究からのヒントを頂いたという声を多数頂戴した.

S-Dロジックの次のステージは日本からの情報発信であり,まさに「価値共創」と進化することが必要となるであろう.

〔庄司真人(高千穂大学)〕

参考文献
 
© 2018 Society for Serviceology
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