サービソロジー
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会議報告
デジタルヒューマン・シンポジウム2015
堀 俊夫
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2015 年 2 巻 2 号 p. 60-61

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1.  はじめに

2015年3月13日,東京・お台場の日本科学未来館においてデジタルヒューマン・シンポジウム2015が開催された.独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)のデジタルヒューマン工学研究センター(DHRC)が主催するシンポジウムとしては今回が最後の開催となる.約300名が参加したこのシンポジウムについて,司会を務めた筆者がその概要を報告する.

2. デジタルヒューマン・シンポジウムとは

本シンポジウムあるいはデジタルヒューマンという研究分野についてご存じない方のために,初めにその歴史を振り返ってみたい.

デジタルヒューマンは2000年に米カーネギーメロン大学の金出武雄教授が提唱した研究分野であり,形状・運動・行動・心理などの「機能」レベルで人間をモデル化し,それをコンピュータ上に再現することで製品デザイン等に活用することを目指すものである.2001年の省庁再編に合わせて産総研にデジタルヒューマン研究ラボが設立され,以後,デジタルヒューマン研究センター,デジタルヒューマン工学研究センターと研究のターゲットを発展させながら研究開発を続けてきた.

ラボが発足する直前の2001年2月には東京ドームホテルにおいてデジタルヒューマン・ワークショップを開催し,以後毎年3月に研究成果を発表する場として開催してきたのが本シンポジウムである(2008年の開催から名称をシンポジウムに変更した).内部的には2001年開催のワークショップを第0回としているため,今回のシンポジウムは第14回の開催となる.

シンポジウムでは毎回その年のテーマを決め,それに関連した招待講演と内部研究者の講演が行われる.さらに講演会終了後には研究所内に移動して,その年に講演のなかった研究テーマ等についても実際に研究を担当している研究者達と直接会話・議論しながら研究内容に触れることができるオープンハウスが開催される.過去の開催内容については,旧デジタルヒューマン工学研究センターのWebページ(1)で公開されているので興味のある方はそちらをご覧いただきたい.

3. 今年のテーマと講演概要

文頭で紹介した通り,今年のデジタルヒューマン・シンポジウムはDHRCが主催するシンポジウムとしては最後の開催となった.そのため,今回は「デジタルヒューマンの総括と未来」をメイン・テーマと定めて開催された.具体的にはDHRCが進めてきたデジタルヒューマン研究全体を俯瞰し,同時にデジタルヒューマン技術が現在活用されている様々な分野からの演者を招いてその成果を共有した.

午前中のセッションでは,DHRCの西田佳史首席研究員の開会挨拶に続き,3件の内部講演が行われた.初めに「デジタルヒューマンモデルのこれまで・これから」と題して多田充徳研究チーム長がDHRCにおける人体形状モデル構築にかかる研究およびそのモデルを実際の製品設計・評価に活かすためのソフトウェア・プラットフォームDhaibaを紹介した.次に小林吉之主任研究員が「デジタルヒューマン研究における歩行評価技術のこれまで・これから」と題して,歩行計測に基づいて各人の歩行を評価し,健康増進や転倒リスク低減等のサービスに繋げる研究を紹介した.午前最後の講演では,「デジタルヒューマンモデルによる生活デザイン技術のこれまで・これから」と題し,人間の生活・活動のモデル化とそれを高齢者の生活デザインに活用する試みを北村光司主任研究員が紹介した.

写真1 多田チーム長の講演風景

午後のセッションは持丸正明DHRC研究センター長の「デジタルヒューマン研究の総括・未来」と題する講演でスタートした.2001年にデジタルヒューマン研究ラボが設立されて以来2010年春までの9年間,デジタルヒューマン研究ではデジタルヒューマンモデル構築のための計測技術とモデル化技術に主眼を置き,それら技術の開発と並行して具体的な応用を見定めた「アプリケーション・ドリブン」な研究を実施して大きな成果を上げてきた.2010年4月にデジタルヒューマン工学研究センターが設立されてからは,それまでの研究を核としつつ新たに「サービス」を軸に加えて実社会に成果を還元してきた.今後のデジタルヒューマン研究では社会との関連をさらに深化させた取り組みが期待される.

写真2 持丸センター長の講演風景

持丸センター長の講演の後は,6件の招待講演が続いた.明治大学の戸谷圭子教授からは,工学・経営・デザインの連携がもたらす共創価値について講演があった.マツダの西川一男氏からはデジタルヒューマンの形状・運動モデルを「快適な乗降動作」を実現するための車両設計に活かしてきた事例が紹介された.川崎重工業の志子田繁一氏からはプラント内での作業環境評価などにデジタルヒューマンモデルを利用している事例が紹介された.ミズノの上向井千佳子氏の講演では,DHRCとの共同研究で開発された製品の紹介と合わせ,今後のデジタルヒューマン研究への期待が語られた.日本インダストリアルデザイナー協会の金井宏水氏からは,乳幼児の事故予防のためにDHRCと共同で開発したキッズデザインツールズの紹介があった.適寿リハビリテーション病院の栄健一郎氏は,DHRCが開発した技術と地域社会との連携により高齢者の社会参加を支援する取り組みが紹介された. DHRCが取り組んできたデジタルヒューマン研究の成果が社会に還元されてきた事例が多く紹介され,また今後の発展への期待が感じられる講演であった.

講演会最後の閉会挨拶では,これまでデジタルヒューマン工学研究センター(DHRC)として活動していた研究グループが,ほぼそのままの陣容で新たに産総研内に発足する人間情報研究部門デジタルヒューマン研究グループ(DHRG)として活動を継続することが多田チーム長から発表された.

写真3 DHRCからDHRGへ

4. おわりに

DHRC主催のデジタルヒューマン・シンポジウムは今回で一旦終了するが,閉会挨拶で多田チーム長からも紹介があった通り,デジタルヒューマン技術に関する研究はデジタルヒューマン研究グループとして継続される.シンポジウムについても,名称は変わるかもしれないが同時期の開催を予定している.今後のデジタルヒューマン研究にもご注目いただきたい.

〔堀 俊夫 (産業技術総合研究所)〕

参考文献
 
© 2018 Society for Serviceology
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