サービソロジー
Online ISSN : 2423-916X
Print ISSN : 2188-5362
巻頭言
製造業サービス化時代の日本
戸谷 圭子
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2015 年 2 巻 3 号 p. 1

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先日,某大学のMBAサービス・マーケティングのクラスでハッとさせられる出来事があった.2004年のあるコンファレンスが,サービスとモノを二分する考え方の基礎でもあるIHIP(無形性などモノとは異なるサービスの性質を示す)を見直す契機になったことに触れた際のことである.製造業に従事する社会人学生の1人が,「そんなことに気づくのが2000何年って,遅すぎませんか?」とコメントしたのである.今だからそう言えるというのは言い訳である.古くから多くの研究者がモノVSサービスの構図に違和感を持っていたことは明らかだ(1977年のLynn Shostack*1の指摘など).しかしながら,確立した既存理論を覆すことは容易ではなかった.それは反証にかかる時間や労力だけの問題ではなく,擦り込まれた知識という心理的な障壁もあったに違いない.一方で,実務の世界にも同じ構図がある.企業がその成功体験や出来上がった企業カルチャーのため,客観的事実や論理的には自明の帰結を受け入れられず,手遅れになるまで意思決定を先延ばししてしまうことはままある.

製造業のサービス化(Servitization)は,サービス研究における重要テーマのひとつであり,多くの企業の直面する実務課題でもある.特に,高品質の製造物で高い地位を築いてきた,または,そう信じられている国々にとって,製造物のコモディティ化,言い換えれば,モノの機能的価値での優位性維持が困難になったことへの危機感は強い(はずである).また,世界中で顧客ニーズがモノの基本機能を超えて高度化・複雑化・個別化する中で,新興国経済のサービス化も急速に進んできている.その一方で,ある種の企業にとっては,先延ばししたい課題でもあるようだ.

文理・産学融合を目指す本学会には製造業実務家会員も多い.サービス学会の活動としては,国内大会と併設のグランドチャレンジワークショップにおいて継続的に製造業サービス化が取り上げられ,現在はSIG(共通の興味を持つ学会員が集まる部会)としてサービス化の功罪や,サービス化の類型,プロセスなどに関して研究活動が行われている.

この課題に取り組む研究者には,経済社会問題の解決,究極的には人々のQOL向上のために製造業サービス化が本当に有効なソリューションかどうかという基本的な問いも含めて,早急な回答が求められている.その際,我々はサービス研究の歴史を振り返り,真に産学が連携して研究を進めることの重要性を再認識すべきであろう.

このような状況を踏まえ,本誌サービソロジーでもこの重要テーマを数回に分けて取り上げていくこととなった.第1弾となる本号では,サービス化の動向が注目される各国の事情に詳しい専門家の方々に寄稿いただく形で構成した.具体的には,先進諸国の中でサービス化された製造業の割合が最も高いともいわれるアメリカ,「製造大国」から「製造強国」への転換を図る中国,国家政策としてIndustrie 4.0およびスマート・サービスを推し進めるドイツ,さらに,リーマンショック以降,金融から製造への回帰を進めるイギリス,の4カ国を取り上げた.今後,第2弾として(サービソロジー第9号2016年4月刊行予定),日本の製造業のサービス化について,その必要性や結果として予測される功罪,サービス化を進める上での障害や成功事例などについて企業・研究者の両側の目線から取り上げる特集を,さらに第3弾として,研究者の視点で最先端のServitization研究の成果を取り上げる特集を刊行する予定である.本号以降にも注目して頂きたい.

著者紹介

  • 戸谷 圭子

明治大学 専門職大学院グローバル・ビジネス研究科 教授

*1  Shostack, G.L. Breaking Free from Product Marketing. American Marketing Association. Journal of Marketing, April 1977.

 
© 2018 Society for Serviceology
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