サービソロジー
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SIG報告
サービス学ロードマップSIG(第2回報告)
新井 民夫
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2015 年 2 巻 3 号 p. 38-39

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1. はじめに

サービス学ロードマップSIGは2013年11月に委員長 新井 民夫,副委員長 竹中 毅,委員 持丸 正明,戸谷 圭子,新村 猛,淺間 一の6名で立ち上げた小規模SIGである.当初のミッションは日本学術会議の「夢ロードマップ」と経済産業省の技術ロードマップの作成活動であった.それらは昨年4月の本誌創刊号にて報告した.その後,本SIGはミッションを拡大し,サービスに関連する技術の進歩についてサービス学会内で意見聴取を行い,2014年8月8日には事業委員会主催で「サービス学ロードマップシンポジウム」を開催した.また,サービスロボットに関する緊急アンケートを行った.2014年9月30日には日本学術会議第3部サービス学分科会が主催するシンポジウムを後援した.以上の活動の中から,サービスロボットのアンケート調査を報告する.

2. サービスロボットに関するアンケート調査

2014年5月,安倍首相がOECDで「日本はロボットの利用を積極的に進め,ロボットによる『新たな産業革命』を起こすこと」を表明した(1).これを受けて本年5月にはロボット革命イニシアティブ協議会が発足している.この流れは,今度こそサービスロボットの導入が始まるかもしれないとの期待を高めている.2014年7月の段階において,本SIGは「サービスロボットに対する期待」の予備調査を学会内で実施した.20人ほどの会員に対して7月24日にE-mailで依頼し,記名式で7月30日締切りという短期間で回答を募集,11名から回答を得た段階で予備調査としての目的は果たされたとして停止した.

この調査では,「生産性向上の観点から,サービス産業で導入が期待されるロボット技術」という産業側のニーズと,「近い将来導入可能で,それにより生産性向上が期待される技術」という技術シーズとを調査するために,4つの設問を設けた.回答は極めて幅広い意見の分布となった.回答者中10名分のまとめがなされているので,それを元に報告する.

  • Q1:   ロボット(物理的な効果を及ぼす機器)を使うに適したサービス現場の例を挙げてください.

Q1の回答では,医療・介護・高齢者(13件),飲食・小売・流通(9件),工場現場・建設現場(6件),農業(2件),観光(2件),掃除等支援(2件),コミュニケーション支援(2件),家事支援(1件),安全安心支援(1件),その他(方向性)(2件)が得られた.やはり,介護に対する関心は高い.サービス業への適用は配膳,運搬など移動系が多い.

  • Q2:   次のイメージに合う事例,あるいは考え方がありましたら,記載してください.

    (1)小型,汎用型で中小企業にも使いやすいロボット

    (2)単純・安価だから「使える」10万円程度のロボット

    (3)ユーザが考えるサービスロボットの応用

(1)(2)の回答は共通しており,「10万円は,製造費,ロジステックス,宣伝を考えると,単体ではありえない」と切り捨てた意見から,「価格が安ければ使う」という希望的な予測まで広がっている.質問自体が適当で無かったのかもしれない.サービスロボットの使い方を問う(3)に対しては回答がばらついている.

  • Q3:   現在市販されている4種類のロボットの推定される利用方法を示してください.

    (1)ロボットの使い道

    (2)顧客側から見た評価指標

    (3)レンタルだと仮定して,支払い可能なサービス価格/年

    (4)ロボット利用のため,環境整備費として初期投資可能な額

具体的な商品を示したこの質問に対しては,想定する利用方法によって回答は大きく広がった.特に,(3)(4)の経済的評価は利用先での省人化度合いを反映している.

  • Q4:   ニーズとシーズとの技術調査

    (1)生産性向上の観点から,サービス産業で更なる導入が期待されるロボット技術は何か?(産業側のニーズ)

    (2)ロボット技術の中で,近い将来導入可能で,それにより生産性向上が期待される技術はあるか?(技術シーズ)

この質問がこの緊急アンケート本来の目標である.(1)の回答は広がりを持つが,音声認識・言語理解・ジェスチャ理解,並びに感情表現技術などのインターフェース技術に対する関心が高い.(2)に対しても同様に人間との協調技術が求められる中で,ICTが重要かつ可能性があると考えている.「ロボット白書(第4章サービス領域)」に,「今後のロボットに期待される技術」が記載されているので参照するようにとの示唆も頂いた.

この緊急的で小規模なアンケートを元に,ロボットによるサービス提供の可能性を論じることはできない.回答者の大半はロボット系や情報系の研究者であり,開発課題について十分な理解がある集団である.それでも,共通する技術目標を絞ることは難しい.また,既に販売されているロボットに対する評価も多様である.これらの結果から,アンケートを使った技術予測の難しさを感じざるを得なかった.

3. 科学技術予測調査

回答者の主観が盛り込まれた上記アンケートをロードマップの基本データとすることは難しくとも,未来を考えるヒントは得られる.未来予測として長い歴史を誇るのはデルファイ法を用いた科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の活動である.1971年から5年毎に調査されている.2014年9月から11月にかけてNISTEPが進めた第10回科学技術予測調査にサービス学会として協力した.調査項目に「サービス化分野」が含まれたこともあり,本SIGは調査に注目してきた.その報告書「第10回科学技術予測調査 分野別科学技術予測」は,2015年9月にNISTEPウェブサイト上(2)で公表されている.今回の特徴はサービスという視点を明らかにし,「サービス化社会」として10 細目 [経営・政策,知識マネジメント,製品サービスシステム (PSS),社会設計・シミュレーション,サービスセンシング,サービスデザイン,サービスロボット,サービス理論,アナリティクス,人文系基礎研究]に関する101の設問を導入したことにある.具体的にはサービスロボット,社会設計・シミュレーション,サービスセンシング,製造サービスシステム(PSS)などが扱われている.

報告書から引用すれば,「(「サービス化社会」は)欧州などで盛んに研究されている製造サービスシステム(Product-Service Systems: PSS)の議論,イノベートアメリカで取り上げられ脚光を浴びたサービス科学の議論などを踏まえ,今回新設した分野である.<中略> 様々な主体の間で交換される価値や,そのプロセス,構成方法などを取り扱う分野であり,21 世紀におけるシステムの科学ともいえる.」と位置づけているが,「分野の歴史が浅いため研究者層の厚みが薄い,といった指摘も見られ,個別のトピック・ 細目の評価もさることながら,分野自体の振興を求める意見も多く見られた.」との指摘を重く受け止めたい.

4. おわりに

本SIGの活動は,ロードマップの作成とサービス技術の普及展開である.それには具体的な調査活動が基礎となるので,このような総合的な調査結果と従来からの技術ロードマップを基に今後のSIG活動を活発化させていきたい.

著者紹介

  • 新井 民夫

70年東京大学卒,東京大学工学系精密工学専攻教授を経て,12年より芝浦工業大学教授.自動組立,移動ロボットの協調,サービス工学の研究に従事.精密工学会会長,2012年よりサービス学会初代会長.

参考文献
 
© 2018 Society for Serviceology
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