2017 Volume 3 Issue 4 Pages 30-31
去る2016年9月6日から8日までの3日間,芝浦工業大学豊洲キャンパス(東京都江東区豊洲)において,サービス学会主催の国際会議International Conference on Serviceology (ICServ2016)が開催された*1.本稿では,同会議の概要,及びハイライトを報告する.
本会議は昨年度アメリカ・サンノゼで開催されたICServ2015に続く,第4回目のサービス学会の国際会議として開催された.芝浦工業大学の新井 民夫教授がGeneral chairを,京都大学の原 良憲教授がProgram committee chairをそれぞれ務めた.参加者数,参加国数などの情報を表1に示す.参加者数は過去3大会を上回る172名に上った.参加国数は13カ国(日本含む)で,日本を除く最多参加国はフィンランド(7名)であった.
参加者数(招待者除く) | 172名 |
内,海外参加者 | 21名 |
参加国数 | 13カ国 |
口頭発表論文数 | 69件 |
ポスター発表数 | 17件 |
本会議のハイライトをトピック別に紹介する.
3.1 キーノートセッション本会議では,3件のキーノートセッションと2件の企業特別セッションが実施された.
初日の最初のキーノートセッションでは,本会議のGeneral co-chairを務めたウィーン大学のProf. Dimitris Karagiannisと世界的な工具メーカーHiltiのCIOであるDr. Martin Petryが“Industrial Product-Service Systems Engineering”というタイトルで,製造業におけるサービス開発の手法と実践について,学術・ビジネス両面の立場から講演を行った.次に,富士通株式会社の特別セッションとして,同社マーケティング戦略室の高重 吉邦室長が,“Human Centric Innovation and Digital Future”というタイトルで,デジタル化と競争環境の変化の中,イノベーションを生み出し続けるための取り組みについて講演を行った.その後,一橋大学の藤川 佳則准教授も参加し,パネルディスカッションを行った.
2日目はコペンハーゲンビジネススクールのProf. Alexander Josiassenがマーケティング分野における’image’についての講演を行った.3日目は,産業技術総合研究所人工知能研究センターの辻井 潤一センター長が,人工知能研究とサービス研究の接点について講演を行った.最後に,株式会社日立製作所の特別セッションとして,同社社会イノベーション協創センタの平井 千秋主管研究員が大規模シミュレーションを活用したサービスデザイン手法の紹介を行った.
3.2 ポスターセッションポスターセッションでは,日本サービス大賞,経済産業省「産学連携サービス経営人材育成事業」,及び国立研究開発法人科学技術振興機構の研究プログラムS3FIREに関する,計17件の発表が行われた.会場には人が溢れ,多くの議論が行われていた.
3.3 オーガナイズドセッション今回一般のセッションとは別に,下記3件のオーガナイズドセッションが企画実施された(Experience Value Co-creation for Skill Learning Services,From Record to Memory,Meaningful Technology for Seniors).筆者は”Meaningful Technology for Seniors”のSession chairをフィンランドの共同研究者と共に務めた.
いずれも高齢者支援,介護サービスに関係するセッションであった.社会的関心の高さもあり,サービス学研究における同分野への取り組みの重要性を感じた.
一般セッションでは,8種類のテーマに基づき発表が行われた(Service Design,Service Innovation & Eco-system,Service Practice,Human-centered Service System,Service Engineering & Technologies,Service Management & Operations,Value Co-creation & Context,Servitization & Productization: Theoretical Perspectives on Service).
定番のテーマがある程度固まりつつあり,研究分野の成熟が感じられる反面,学術的な観点からどのように新規のテーマを創出していくかが今後の課題であると感じた.例えばサンノゼ州立大学のProf. Stephen Kwanはサービス分野の標準化について言及していたが,標準化は次回以降共通に議論可能なテーマとなり得るかもしれない.オーガナイズドセッションをコンセプト発掘の場として活用するなど,新規テーマの発掘が今後更に進められることが期待される.
3.5 クロージングセッションクロージングセッションにおいては,産業技術総合研究所の竹中 毅主任研究員が,過去のICServにおける研究テーマについて俯瞰的に発表を行った.その後,今後必要な研究の取り組みについての議論が行われ,基盤的な研究の推進,会議参加者間での相互理解の構築などの必要性が話し合われた.
参加者の構成に見られるように,ICServの国際化は未だ道半ばである.筆者自身の本会議におけるセッション運営の経験から,学会員による海外研究機関との連携は学会の国際化を図る上でも有効な手段になると考える.例えば,海外のサービス研究の学会メンバーとの交流の機会を増やすなど,学会として海外連携を推進することは有効なアプローチになるのではないかと考える.一方,ICServがサービス研究関連学会の中で独自のポジションを築くことも重要である.その意味でも,他の学会との交流を通じたベンチマーキングは有効であると考える.
次回の国際会議ICServ2017は2017年7月12~14日,オーストリア・ウィーンのウィーン大学にて開催される*2.2015年の米国開催に続く2度目の日本以外での開催であり,初のヨーロッパでの開催となる.ICServが今後サービス研究分野においてよりプレゼンスを発揮していく上で,重要な機会になると思われる.今後の益々のICServの発展に期待したい.
国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センター主任研究員.工学博士.2012年首都大学東京大学院システムデザイン研究科博士後期課程修了.専門は設計工学・デザイン研究,サービス工学.サービス設計方法論,並びに支援技術の研究開発に従事.