本報告では,2017年11月29日(水)に産業技術総合研究所臨海副都心センターで開催した,日本・フィンランドの介護サービスと支援技術についての国際シンポジウム「METESEシンポジウム」を紹介する.
本シンポジウムは,2015年に開始した日本とフィンランドの研究者による介護サービスと支援技術に関する国際連携プロジェクト「METESEプロジェクト」*1の成果報告の一環として開催された.企業,大学,介護事業者,自治体等を含め,およそ70名のご参加をいただき,盛況なイベントとなった.なお,本シンポジウムに先立ち,11月10日(金)にフィンランド・タンペレにおいても同様のシンポジウムを開催し,当地でもほぼ同数の参加をいただいた.
本報告では,プロジェクト概要と主な取り組みについて説明し,その上でシンポジウムの概要を紹介する.
METESEプロジェクトは,国立研究開発法人産業技術総合研究所(以降,産総研)とフィンランドの研究機関VTT Technical Research Centre of Finland Ltd(以降,VTT)の2国間共同研究として実施された.日本側の研究代表者は筆者,フィンランド側の研究代表者はVTTのsenior researcherのDr. Marketta Niemeläである.本プロジェクトでは科学技術振興機構,フィンランド技術庁からそれぞれ支援を受け,研究活動を行った.プロジェクト期間は3年間(2015.4-2018.3)である.
本プロジェクトの研究対象は,両国の介護サービスとその支援技術である.両国共通の課題である高齢化に対し,近年期待が高まっている介護支援技術(ICT,ロボット等)がどのように介護サービスや高齢者の生活の中で活用・展開されるべきか,サービスシステムの観点から各種調査,技術導入ケーススタディを実施した.特に本研究では,国・地域の違いがもたらす制度・文化・生活・介護業務の違いに着目し,多様な利害関係者の観点から,技術に求められる要件・使い方の違いについての分析を行った(Watanabe et al. 2017).
本プロジェクトは,上述の国際共同研究の取り組みであると同時に,異分野連携研究の側面を持つ.日本の研究チームは,主に産総研でサービス工学研究を推進してきたメンバーで構成される.一方,フィンランドの研究チームはその大半が社会科学系研究者で構成されており,ヒューマン・ロボット・インタラクション,ユーザー調査を専門とするDr. Niemeläを中心に,サービス・イノベーション,Gerontechnology(高齢者支援技術)を専門とするメンバーが参加している.両研究チームがそれぞれ強みとしているアプローチ(日本側:介護業務分析,従業員参加によるCo-designアプローチ,フィンランド側:ユーザー調査,経営・制度分析)を組み合わせ,さらに,両国の介護サービス事業者や自治体,介護支援機器事業者等と連携しつつ,研究を進めた.
本シンポジウムは,プロジェクト研究成果報告と4件の招待講演,並びにパネルディスカッションを実施した.本節ではその概要をご紹介する.
METESEプロジェクトの研究成果報告を3人の報告者が行った.最初に産総研の三輪洋靖企画主幹より,日本・フィンランド双方で実施した介護サービス,支援機器についてのアンケート調査と,介護施設の業務分析結果を元に,介護サービス実践における日本とフィンランドの違いについて報告した.
次に,VTTのDr. Marketta Niemeläより,本プロジェクトで実施した介護支援技術のユーザー評価を題材に,高齢者支援技術開発・評価におけるユーザー参加型アプローチとそのプロセスについて紹介を行った.
最後に,筆者より,サービスシステムを構成する利害関係者の観点から見た両国の介護サービスと介護支援技術の展開に見られる違い,並びに,介護支援機器を含むサービスの分析・デザイン手法の紹介を行った.

前半2件の発表は,日本とフィンランドで,地方行政の立場から介護支援技術の社会実装を推進している2名の方に講演をいただいた.
最初の招待講演は,フィンランド・ハメ郡地域カウンシルのヘルス・ソーシャルサービス改革ディレクターであるMr. Jukka Lindbergに,現在フィンランドで進められている社会保障制度改革の現状と,新制度下における技術の役割について講演をいただいた.フィンランドの社会保障制度改革は,高齢者の在宅での持続的な生活の支援に重点が置かれており,デジタル化による在宅支援や新しい介護サービスの形態について,ハメ郡の事例を中心に紹介をいただいた.また,METESEプロジェクトの次に取り組むべきテーマについてもご提言をいただいた.
2件目の招待講演では,神奈川県政策局ヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室の金井信高室長に,神奈川県におけるヘルスケア・ニューフロンティア政策の取り組みをご紹介いただいた.神奈川県では,医療・介護支援技術分野での先駆的な取り組みに加え,健康と病気の間に存在する「未病」という過程に着目し,その改善のための様々な施策が行われている.また,フィンランド・オウル市との協定を含む,同県の様々な国際的な取り組みについてもご紹介をいただいた.
後半2件の招待講演は,日本・フィンランド双方の高齢者・介護支援機器の研究開発で多くの実績のある2名の研究者の方が登壇された.
まず,産総研ロボットイノベーション研究センターの比留川博久研究センター長に講演をいただいた.「ロボット介護機器開発最前線」というタイトルで,同氏が取り組んでこられた介護ロボット研究プロジェクトの取り組みと成果をご紹介いただいた.
最後に,VTTのMs. Anna Sachinopoulouに,「在宅高齢者の生活を支える技術と方法」というタイトルで講演をいただいた.欧州共通の流れである介護の在宅シフトを背景に,フィンランド,特に同氏の繋がりの深いオウル市における在宅支援技術に関する取り組みをご紹介いただいた.また,VTT内でこれまでに実施されてきた高齢者支援技術プロジェクトの例を複数ご紹介いただいた.
本シンポジウムの最後のセッションとして,全招待講演者をパネリストとして迎え,パネルディスカッションが実施された.モデレーターはDr. Marketta Niemeläが務めた.テーマとして,「日本とフィンランドにおける高齢者介護の取り組みの共通点・相違点」,「パネリストの考える,最も優れた高齢者支援ICT・ロボット技術「ICT・ロボット技術の高齢者介護サービスへの導入の阻害要因」,「フィンランドと日本の,介護ロボットへの受容性の違い」,「技術と介護に関する将来ビジョン」がモデレーターより提示され,パネリストを中心に活発な議論が行われた.
本稿では,METESEシンポジウムの概要を,プロジェクトの内容も含めご紹介した.フィンランド側の参加者からも継続した連携を期待する声があり,今後他の国も含め,国際連携の取り組みをさらに広げていきたいと考えている.また,今年のサービス学会の国際会議はアメリカ,オーストリアと続き台湾での開催となり,サービス学会の国際的な認知度も徐々に高まっている.日本発のサービス学研究の更なる国際化に向けても,微力ながら貢献したい.
〔渡辺 健太郎 (産業技術総合研究所)〕