サービソロジー
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会員活動報告
サービス学会第6回国内大会チュートリアル・セッション
星田 剛
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2018 年 5 巻 1 号 p. 50-51

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1. はじめに

サービス学会第6回国内大会の前日の3月9日,サービス学に関する基本概念の確認と最新のサービス研究の把握を目的としたチュートリアルセッションが開催された.出席者は,研究者,実務家,社会人大学院生と多岐にわたり,48名が参加した.ディスカッションツール「MeeToo」を通し,出席者から3名の講師に対し様々な質問が寄せられた.菊池一夫教授(明治大学)のコーディネートにより講師から効果的なフィードバックがなされ,最終的にはコメント数が50を超えるなど議論が活発化し,終了時刻を30分延長した.

2. 第1講座「サービス・ドミナント・ロジックの基本的枠組みとその応用展開」

2004年にVargo & Luschにより,サービス・ドミナント・ロジック(SDロジック)が提唱されてから,14年ほどの歳月が経過している.この間SDロジックは,当初提唱された内容から大きく発展し,現在に至っている.Vargo & Luschは,数多くの論文,著書,講演を通じて本ロジックの解説や普及に努めてきた.そのためSDロジックは,国内外の多くの研究者に注目され様々な形で解釈され応用されてきたが,一方で,不正確な理解のまま,自身の研究に取り込んでいる論文・著書も散見されている.そこで第1講座では,SDロジックの正確な理解を広めるため同ロジックの日本における普及者である2名の研究者による講義が企画された.

2.1 「SDロジックの基本的枠組み」 井上崇通教授(明治大学商学部)

井上先生からは,マインドセットとしてのSDロジックについて,その理論的枠組みとその発展の経緯について講義頂いた.主な内容は以下の通りである.

多くの専門書でサービスの特徴として紹介されている無形性,異質性,不可分性,消滅性の4つの特性は,そもそも有形財を前提とした発想でありサービスの本質を表していない.有形財の取引に焦点を当てたグッズ・ドミナント・ロジック(GDロジック)では,企業や顧客・消費者の間で行われている知識やスキルなど無形資源の交換について説明できない.GDロジックを包含し,有形・無形の資源にかかわらず他者や自身のベネフィットのために知識やナレッジを適用するサービスに焦点を当てたSDロジックが登場した.

SDロジックは,14年間で様々な発展を遂げている.当初,企業と顧客などアクター間のダイアディックな関係(A2A)の関係の議論から始まった.次にアクターがシステムの生存可能性を高めるために資源統合(価値共創)を行うネットワークに議論が移り,相互依存を強めるため入れ子状になっているサービス・エコシステムの概念まで発展している(Vargo and Lusch 2014).このようにSDロジックは,ネットワーク理論,ビジネス・エコシステム,サービス科学,サービス・イノベーションなどの視点を得て発展を続けている.

2.2 SDロジックの応用展開-新しいマーケティングとはどのようなものか」 村松潤一教授(岡山理科大学)

村松先生からは,企業と顧客との関係に重点をおいて講義頂いた.主な内容は以下の通りである.

内閣府調査によると1978年頃を境に日本人の意識はモノを所有することより使用することに価値を感じるよう移行した.この40年,企業はいかなる行動を取り,マーケティングはいかなる示唆を与えてきたのであろうか.むしろ実践は先行していたが理論は遅れていたのではないだろうか.何が交換されるか,という点にSDロジックは一つの解を与えたといえる.

一方,顧客は常に価値共創者であるとするSDロジックに対し,顧客は常に価値の創造者であり特定の状況において価値の共創者であるとするサービス・ロジック(Sロジック)は,顧客と企業の相互関係を説明しやすい.Grönroosが提唱するSロジックの概念を起点に,消費プロセスで企業と顧客が直接的相互作用により文脈価値を生み出す価値共創マーケティングがサービスを考察する際に重要になる.

消費と同時に課金されるサービスのプロセスにおいては,市場で「未等価交換」を強いられていることに着目する必要がある(村松2015).交換価値>文脈価値の場合,期待はずれの高級レストランのように顧客は泣き寝入りすることになる.一方,交換価値<文脈価値の場合,提供した価値を課金できない企業は機会損失を被ることになる.こうした中,コンサート終了後に顧客が料金を決めて支払うロックバンドが表れるなど市場における等価交換を目指す事例が出始めている.新しいマーケティングの時空間は市場ではなく,顧客の生活空間にあるといえる.

3. 第2講座「サービス関連研究の動向報告」 戸谷圭子教授(明治大学グローバル・ビジネス研究科)

戸谷先生からは,大会2日間の主要テーマの一つであったサービス学の参照基準,サービス学の研究領域,サービスエクセレンスについて講義を頂いた.サービス学が注目を集めている状況や今後の方向性について端的に示して頂き,経済産業省・文部科学省など府省の動向と,諸研究を理解する上の礎となった.

4. おわりに

アスリートは試合直前になると入念なストレッチや基礎練習を繰り返し,正しいフォームとベストのコンディションで本番に臨めるよう心掛ける.初学者である筆者にとって本セッションは,先端の研究が発表される国内大会に臨む上で欠かせない基礎練習であったように感じている.本セッションへの参加により,諸先生方の研究発表を自分なりに咀嚼し,理解を進めることができたように思う.

またサービス学の理論を現場で応用する実務家の立場としても,様々なヒントを頂いた.貴重な経験を与えて頂いた3名の先生方とセッションを運営して頂いた皆さまに改めて感謝申し上げたい

著者紹介

  • 星田 剛

愛知学院大学商学専攻後期博士課程,イオン株式会社 グループ経営監査室所属,都市銀行勤務を経てイオンにてグループ企業の管理担当取締役・国際事業の管理などを担当.

参考文献
  •   Vargo,L.S. and Lusch, R.F. (2014). Service-Dominant Logic Premises, Perspective, Possibilities. 井上崇通 (監訳),庄司真人, 田口尚史(訳).サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用. 同文館出版.
  •   村松潤一(2015). 価値共創とマーケティング論. 同文館出版.
 
© 2018 Society for Serviceology
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