サービソロジー
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特集:社会課題解決のためのCo-Production
特集:特集「社会課題解決のためのCo-Production」にあたって
木見田 康治
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2018 年 5 巻 3 号 p. 2-3

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近年,様々な社会課題に対するアプローチとして,多様なステークホルダーが協働(co-production)しながら解決を図る取り組みが活発化しつつある.価値の共創(co-creation)が,製品やサービスなどの提供物を使用して価値(使用価値)を生み出す過程に着目しているのに対して,本特集では,提供物そのものをユーザーと共につくり出す過程をco-productionとして広義に捉え,国内外における最新の取り組みを紹介する.

Co-productionに関する研究は,90年代から数多く行われており,当初は,セルフサービスなどの顧客を労働資本として活用することや,顧客による製品・サービスのカスタマイゼーションなどに関する研究が中心的であった(Payne et al. 2008).これらの研究では,主に,提供者と顧客との1対1の関係に着目しており,その関係性も提供者主導で顧客が受動的に関与するものが多い.しかしながら,近年では,顧客と企業だけでなく,大学や自治体など多様なステークホルダーが参画する取り組みが数多く報告されている.また,ステークホルダー間の関係についても双方向的なものが多く,異なる他者との相互作用を通じて課題への理解を深め,その解決に向けた活動への能動性を高めることを目的としている.そのため,co-productionかco-creationかという二分的な捉え方ではなく,これらの過程を連続的に捉えることでco-productionにより効果的にco-creationに繋げる必要性も指摘されている(Chathoth et al. 2013).

このように,参加するステークホルダーやその関係性が多様化する一方で,活動を主導する実務家や研究者は新たな問題にも直面している.例えば,参加するステークホルダーと双方向的な関係を構築し,能動的な参加を促すためには,単発的ではなく中長期的な取り組みが必要となり,これには多くの時間と労力を要する.また,ある程度完成された製品やサービスの効果を検証するのではなく,問題や仮説を探索することを目的とした場合,活動目標やそれぞれの役割を事前に明確に定義することが難しく,活動期間や契約などに関する実務的な問題が数多く生じる.

本特集では,このような社会課題の解決に向けたco-productionに関する方法論を事例を交えて紹介するとともに,その効果や課題についても言及する.

木村・赤坂は,生活者と企業・行政が共にサービスを作るリビングラボについて,その方法論や,効果,課題について紹介している.リビングラボの方法論に関しては,例えば,技術・サービスの効果を検証する仮説検証型と,実生活を観察,理解しながら仮説を探索する仮説探索型の2つのアプローチを挙げている.また,製品・サービスの利用者の役割に関しては,実生活の実態を明らかにする情報提供者や,製品・サービスを試用し検証する試験者など,多様な役割を挙げている.利用者が他の利用者や企業と対話・議論することで,自身が直面する問題について学習し,当事者意識を深めていくことが重要であり,これにより共創できる,共創してもよいと思える解決策の創出へとつながることを指摘している.一方で,リビングラボの活動に対する持続性の確保や,資金運用,評価,契約など,実務的な観点における課題についても述べている.

本江らは,仙台市の卸町にある復興公営住宅をフィールドとしたコミュニティ・デザインにおける取り組みを紹介している.この取り組みでは,生活者の声にそのまま応えるだけでは,現場に潜む課題の核心に迫ることは難しい一方,作り手側の都合や想いだけが先行した場合,現場にとって真に役に立つサービスが生まれづらくなるという課題認識のもと,生活者と作り手が対等な関係を築き,相互に影響し合いながら共にサービスをデザインするという方法論を実践している.例えば,Salonと呼ばれる住民との対話に特化した場を設け,住民の声をアイディアに反映させ再び提示することで,「意見や提案をどんどん言ってもいいんだ」「この人たちは受け止めてくれるんだ」という雰囲気が醸成され,住民の積極性を高めている.また,このような取り組みを進める上では,専門分野の異なる学生や,教員,企業,生活者などの属性の異なる他者との関係が重層的に織り込まれていることが重要であると指摘している.

原田は,地域の高齢者と大学,企業の3者によるコミュニティをつくり,共創的に人工物(モノ)の使いやすさを検討・向上させていく活動を実践している.高齢者を研究の対象として捉えるのではなく,パートナーとして位置づけることで,個別のモノの使いやすさの改善,あるいはユニバーサルデザインの実現に止まらず,3者それぞれが感じる価値創出を実現している.さらに,この共創的な取り組みを通じて,参加メンバーの主体性・積極性を高めることで,コミュニティ自体の強化,成長に繋げている.一方,このようなコミュニティや取り組みは,一朝一夕で実現できるものではなく,地道な活動を通して参加メンバーの変容を促す等,多くの時間と労力を要することを指摘している.

岡田らは,認知症という社会課題を,マルチステークホルダーにより協調的に解決するための取り組みを紹介している.この取り組みでは,認知症という社会課題を,コミュニティ同士をつなぐ,新しいコミュニティを形成するためのバウンダリー・オブジェクトとして位置づけることで,認知症の当事者,一般市民,地方自治体,企業,NPO,医療・介護関係者,大学などの様々なステークホルダーによる協働を加速させることを目的としている.この取り組みを通じて得られた知見として,例えば,対象とする社会的課題の本質的な視点や方向性を,観察や対話を通して発見するだけでなく,課題にかかわるステークホルダーが,価値や相互の関係性について理解を踏まえた上で,プロジェクトとして具体化していくことが重要であると述べている.また,規模の大きな企業や自治体では,マイクロサービスに対応することが難しいことから,NPOやベンチャーなどと手を組む必要があるなど,実務的な課題についても解説している.

安岡は,参加型デザインの視点から,欧州におけるリビングラボに関するプロジェクトを紹介している.本プロジェクトは,高齢者の生活環境にセンサーを導入し,モニタリング・データ分析を通して適切な介入を行う高齢者ケアのためのシステムを構築することを目的としている.高齢者特有のデータ取得の困難さや,研究者が把握していなかった高齢者の常識の把握など,高齢者との長期的な関係により得られた知見を紹介している.そして,単発のワークショップのような一過性の環境ではなく持続可能性を確保し,課題や目的,参加者の理解などの変化を促すことで新しい知見がもたらされることを指摘している.

本特集で紹介する事例が示すように,社会課題を解決するためには,多様なステークホルダーとの双方向的な関係を構築し,活動に対する能動性を高めていくことが極めて重要である.本特集を機に,このような取り組みに対する知見が共有され,個々の課題や事例を超えた横断的な議論が活発化することに期待したい.

著者紹介

  • 木見田 康治

首都大学東京 システムデザイン学部 知能機械システムコース 助教.博士(工学).2011年首都大学東京大学院システムデザイン研究科博士課程修了.東京理科大学 工学部第二部 経営工学科・助教を経て,2013年より現職.主としてサービス工学,Product-Service Systems,設計工学の研究に従事.11年日本機械学会設計工学・システム部門奨励業績表彰受賞.

参考文献
 
© 2018 Society for Serviceology
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