今後の国際連携を強化するためのMemorandum of Understanding (MOU)が,2018年11月に台湾で行われた国際会議ICSSI2018 & ICserv2018において台湾のサービスサイエンス学会(S3TW)と締結され,また2019年1月にハワイで行われた国際会議HICSS2019において米国のISSIPと締結された.本稿では,この二つのMOUの締結にサービス学会の会長として係った筆者から,締結先のS3TWおよびISSIPを紹介し,締結されたMOUに関して説明する.
最初のMOUの相手であるThe Service Science Society of Taiwan(S3TW, 台湾服務科学学会, http://www.s3tw.org.tw)は,ICT,サービスデザインの研究者を中心に台湾におけるサービスサイエンスの学術コミュニティを形成している.
図1は学会の組織構成となるが,主な活動は以下のようになっている.
本学会の多くの会員も2018年のICSSI2018 & ICserv2018に参加し実際に研究討議を行うなどの経緯もあるので,我々にとっては世界のなかでも大変に親しい組織となっている.

“The International Society of Service Innovation Professionals, ISSIP” (http://www.issip.org/) はIBM, Cisco, HP と米国の複数の大学により2012年に設立された.産学のサービス研究者および実務家により構成され,カリフォルニア州サンノゼに拠点を置き,サービスイノベーションを世界レベルで実現することを目指して運営されている.
具体的な活動は主に以下のようになる.
会員間の相互交流を通じて各々の研究者が自分の研究を超えた知識・スキルを獲得し,新たな時代にふさわしい研究者のキャリアパスを開発することを手助けする.このために様々な分野の学会など専門組織との相互理解を深める活動も行う.深い専門知識を基盤にしたT-shaped professionalsの育成を行う
サービスサイエンスに基づく大学,企業で使える教育プログラムの開発等を行う.定期的な活動として,主にWeb上で行う講演シリーズ: Frontiers of Service Innovation Speaker Series (http://www.issip.org/learning-center/2602-2) を行っている.様々な活動の成果物は書籍として出版される.特にBusiness Expert Pressから出版されている“SERVICE SYSTEMS AND INNOVATIONS IN BUSINESS AND SOCIETY”(http://www.issip.org/books-and-collections/)のシリーズではサービス研究の成果を社会に普及させるための本38冊が既に出版され,さらに15冊が出版の予定となっている.これらの本を筆者も大学の講義で利用している.
サービスイノベーションに係る研究(knowledge for service science, management, engineering, design)を推進する.このために,サービス研究に関わる学会と協賛して具体的な研究テーマに関する研究トラックを運営するほか,ISSIP Award を提供し,サービス研究の活性化に貢献する.ISSIP Awardは,Hawaii International Conference on System Sciences (HICSS),The Human Side of Service Engineering Conference (HSSE),Naples Forum on Service, Frontiers in Service Conference (Journal of Service Research)におけるベストペーパーアワードとして提供されており,来年3月に大阪で開催される本学会主催のICServ2020よりICServにおいてもISSIP によるAwardが提供される予定になっている.
また,新たな研究分野を開拓するために ISSIP Discovery Summits (http://www.issip.org/issip-discovery-summit/) を行っておりこのHPの内容を見ればその革新性の一端が伺える.是非,ご覧いただきたい.
上述した二つの組織と締結したMemorandum of Understanding (MOU)は,相互の交流を深めることを通じてサービスの研究と教育を発展させることを目的している.“Memorandum”という言葉が使われていることには,この相互交流を通じた活動が各々の組織の独自の活動を何ら制約するものでないという意味が込められている.
二つのMOUの内容はほぼ同じである.会員への情報提供のために,今後実行するプログラムとして記述された文章(ISSIPとのもの)をそのまま英文で以下に記載する.
“MEMORANDUM OF UNDERSTANDING FOR COOPERATION BETWEEN SOCIETY FOR SERVICEOLOGY AND THE INTERNATIONAL SOCIETY OF SERVICE INNOVATION PROFESSIONALS”
アジアにおいて意欲的にサービス研究・教育を進める台湾のS3TWとのMOUの締結,および米国サンノゼでサービス研究を世界的な視野で支援するISSIPとのMOUの締結(図2)は,本学会の国際連携を進める上での大きな進展となった.サービス研究の本質である文脈依存性を考慮する上でも,我々の研究は常に国際的視点のもとで行われる必要があると考える.このMOUの締結を機会に,本学会がますます発展することを願う.


1984年東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程修了.東京工業大学・環境・社会理工学院教授.情報とサービスのイノベーション研究に従事.情報処理学会フェロー, サービス学会理事(第1-3期)サービス学会会長(第4期), IEEE会員, 日本オペレーションズ・リサーチ学会会員, 経営情報学会会員.博士(理学).