サービソロジー
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若手がゆく!「識者との知の共創」
サービスを強みとするモノづくり企業
秦 洋二
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2021 年 7 巻 4 号 p. 145-150

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1. はじめに

サービス学会では,若手研究者と著名な研究者や有識者との交流を促すことでサービス学全体を盛り上げることを目的としたプロジェクトを進めている.本記事,『若手がゆく!-識者との知の共創-』は,そのプロジェクトの一環として,特定のテーマについて若手研究者が識者に行ったインタビューについて紹介するものである.今回はサプリメントの製造・販売を行う企業,株式会社ヘルシーパス(以下,ヘルシーパス)の代表取締役社長 田村忠司氏にお話を伺った.

図1 田村忠司氏

2. ヘルシーパスのビジネス

 本日は,本当にお忙しいところをありがとうございます.今回は,「モノ商品の販売企業が提供するサービス」をテーマとしてお話を伺えればと思っています.ヘルシーパスでは,サプリメントというモノを売っていらっしゃるわけですけれども,実はヘルシーパスのサプリメントはドラッグストアなどで売っているわけではなく,ヘルシーパスに直接購入を依頼しても買うことができません.病院などで医師から診療を受けた患者さんが,必ず医師を通してヘルシーパスのサプリメントを購入する,あるいはその医師から紹介を受けた患者さんが購入するという決まりになっています.

田村氏(以下敬称略) ヘルシーパスでは,商品を売るということの前に,本当に患者さんの健康を良くしよう,治そうと願っているドクターのサポートをしたいと考えています.当社のサプリメントを扱ってくださる先生は,その理念に共感してくださる方が多いと感じています.

 こういう診療科の方が,ヘルシーパスの商品を案内して頂くのに都合が良いということはありますか.

田村 診療科はあまり関係ないです.当社のクライアントには様々な診療科の先生がおいでになります.地理的にも北は北海道から,南は石垣島まで日本中に広がっています.サプリメント活用の有無は,その先生が生活指導に力を入れておいでか,サプリメントを有効と考えておられるかによります.最近は,医療現場でのサプリメントの有用性が徐々に認められるようになってきており,不調がなかなか改善しない患者さんを,どうにかして良くしたいというドクターが当社のサプリメントを使ってくださっているのです.その他,予防的な観点から当社のサプリメントを活用してくださっている先生もおられます.

 そういったドクターとはどのようにして出会うのでしょうか.

田村 積極的な広告宣伝をしているわけではないですが,医療関連の学会の展示ブースに出展することがあります.そういう時に立ち寄ってくださった先生が,クライアントになってくださることが多いと思います.そうしたブースに,当社のクライアントの先生がご友人を連れてきてくださるケースが多いですね.「この間言っていた,私が使っているサプリメント会社はここだよ.サプリメント以外のことも色々教えてくれるから,紹介しておくよ」という感じでお客様がお客様を呼んできてくださる.

 顧客同士のネットワークで自然と広がっていくということでしょうか.

田村 そうですね.それと,あまり売り込もうとしないということで言えば,うちにはそもそも営業部がないのです.

 メディカル・サービス部は,営業部とは違うのですか.

田村 営業部ではないです.メディカル・サービス部は,医師・歯科医師の先生方の悩みを解消するお手伝いをすることを任務としていて,例えば,医療機関でサプリメントを扱う上で知っておくべき法制度についてお伝えしたり,院内勉強会や患者さん向けの講習会を行ったりということをしています.先生方の相談を受けるわけですから,ある程度の見識と社会通念から逸脱しない,良識ある行動・態度が求められる部署です.ですので,現在のメディカル・サービス部のスタッフは中途採用で,一定の社会人経験がある人材で構成されています.ほとんどの場合,入社してきてメディカル・サービス部に配属されると,ここは営業部でしょうと思って着任します.そんなスタッフに,最初に私から念を押すことがありまして,「くれぐれもドクターの前で『うちのサプリメントを買ってださい』と言わないでね」と言うのです.

 営業活動はするなということですか.

田村 正確には「お客様の役に立たない売り込みはしないで欲しい」という意図なのですが,少し厳しめに言っています.そうしたら,皆,ぽかんとした顔をして,「それでは,私は先生の所に行って,一体,何をして来たらいいのですか」と言います.最初の着任の時に,大抵そういう一幕があります.

 人材の面で,少しお尋ねしたいことがあるのですが,社内に女性が非常に多い印象を受けたのですけれども,会社の組織はどのようになっているのですか.

田村 社員は全部で25人です.管理部が3人で,内訳は男性1人と女性2人です.企画・開発部が4人,ここは男性2人と女性2人です.部長が男性で,管理部と企画・開発部の部長を兼務しています.ですから管理部と企画・開発部を併せて6人の社員がいることになります.メディカル・サービス部は5人,男性4人と女性1人です.産婦人科や婦人科などは,女性がいないと入りにくいことがありますね.あとはCS部,カスタマー・サービス部です.ここは12人です.12人中,男性は2人です.ここの部署があることで,女性ばかりに見えるのだと思います.(インタビュー時,女性社員1名が産休中.)

 経営戦略の立案は管理部の業務になりますか.

田村 戦略を考えるのは,部門長4人です.私を入れて部門長級は4人いるのですけれども,その4人が戦略を考えます.昔は私の発言が多かったと思うのですが,今はできるだけ黙っているようにしています.

3. 誰に企業価値を届けるか

田村 スタッフに言っているのは,全部の医師や歯科医の先生をお客さんにするつもりで仕事をしなくていいということです.日本には「お客様は神様」という考え方もありますが,私たちは,理想を共有して一緒にやっていけるお客様と繋がっていきたいと考えています.

 顧客の選別をしなければいけないということですね.ヘルシーパスでは売上拡大にそこまで拘泥されていないように思うのですけれども,一方できちんと売っていかないと経営が回らないということもあると思います.その辺りはどのようにお考えですか.

田村 実はうちの会社は,今まで財務的に,お金に困ったことがないのです.株主が同時にクライアントになってくださっていて,会社のスタート時に十分な資金の提供を受けました.株主ではないクライアントの先生からは,ありがたいことに「なぜ自分を株主に誘ってくれなかったのか.増資する時に声を掛けなかったら許さないからね」と言って頂いています.また,株主さんたちの顔ぶれを見ると,素晴しい方がいらっしゃるので,銀行の信頼も得やすく,融資を受ける時も非常に有利な条件を提示して頂けます.決して儲けたくないわけではないですが,我々が売り上げを上げなくてはいけないと思う動機は,きちんとしたサプリメントを扱っている会社の業績が伸びないと,伸びなかった部分は顧客が粗悪な商品を買うことなる恐れがあるという所にあります.それでは人助けにならないので,世の中を少しでも良くするために,我々の業績を上げないと駄目だと考えています.

 企業理念に共感した株主と理念を追求する企業が揃うと,会社は強くなり,更に理念を追いかけることができるということですね.

田村 そうですね.本気で企業理念を追求しようとする会社を,株主も本気で応援してくださっているという良い関係ができていると思います.

 理念を追いかけながらも,やはり企業経営ということを考えた場合,規模の拡大を志向するというのは良くあるパターンだと思います,そうした規模拡大を考えた場合に,株式上場を目標にする経営者もいると思うのですが,ヘルシーパスでは株式公開は将来的にも考えていないのでしょうか.

田村 私の頭の中には,毛の先ほどもないです.やはり株主は尊敬できる方たちの集まりでいて欲しいので.

 ところで,先ほど,メディカル・サービス部は営業部ではないということで,「サプリメントを買ってくださいと言うな」と言われていたことと関連してお尋ねしたいのですが,それでは顧客とのコミュニケーションはどのようにされているのでしょうか.

田村 ご覧のように小さな会社ですし,フォローアップができるスタッフは5人,私を入れて6人なので,訪問する際には,双方にとって有益な関係が作れるかどうかをよく見極めて訪問します.

 顧客との長期的な良いパートナーシップが築けるかどうかを判断して,関係構築をされているのですね.

田村 そうですね.メディカル・サービス部では,取引のない医療機関に飛び込みをすることはほとんど行ないません.リレーションができているクライアントに,ご挨拶に立ち寄らせて頂く事はありますが,基本的にアポイントを頂いて訪問します.

また,訪問する際には「ようこそ来てくださいました」と言われる状況で行けるように心がけます.私たちが新しいドクターと出会うのは先ほどお話ししたように,展示ブースが多いのですが,その後,繋がりを続けていけるよう,私たちが月2回発行しているニュースレターを購読して頂いています.これは無料ですが,ドクターが関心を持っておられるトピックスをそれなりに分かりやすく纏めて,頑張ってやっているつもりです.もう10年以上続いています.

 先日のアスリートの栄養に関する内容のものは拝見しました.他社でもこのようなニュースレターを発行しているのでしょうか?

田村 私たちをライバルだと思っている会社が,真似して始めてもなかなか続かないようですね.

 あれはどなたが書いているのですか.

田村 基本的に企画・開発部のスタッフです.私が書くこともあります.クライアントが増えてくると,ネタもだんだん増えていきます.メディカル・サービス部のスタッフがドクターにお会いする際に質問されて,その場で答えられないことがあります.それを企画・開発部のスタッフが調べて答えるのですけれども,それが次のニュースレターのネタになることが最近は多いです.

 このニュースレターは,発信元が,ヘルシーパスであることに意味があると思いました.患者さんを治したいと思っているドクターとヘルシーパスとの信頼関係があるから,提供される情報にも信用が置けて,ニュースレターが価値ある情報として認識されているのではないでしょうか.

田村 そうかもしれません.栄養療法についてのまとまった情報は,医学部では教えていないし,製薬会社も提供しないので,本当に学びたいドクターは,自分で先輩のドクターを探し当てて,教えを請いに行くのです.とは言え,待っている患者さんがいるから,そう簡単に動けない.そこに良い情報をご提供すると喜ばれます.

 医師はなかなか休診できないですし,知りたい情報を獲得するには,スタッフの協力を得たり,ヘルシーパスのような良いパートナーを外部に見つけるなどの方策が採られるのでしょうか.

田村 先生からは,サプリメントのことなど,学びたいことは沢山あるのだけれども,体系的に学ぶ場がないという相談を受けます.それから医療現場は大変忙しいので,医師以外のスタッフにしても,仕事をしながら勉強するのは困難が伴うことが多いです.「それを私たちがお手伝いします」と申し上げています.

自社で,栄養療法に関するセミナーを開催することもあります.この場合受講料は有料です.

 そのセミナーに来られる方は,本当に時間とお金を掛けて学びたいことがある方ということになりますね.一方で,セミナーにそれだけの価値がないと,人は聞きに来ないわけで,多くの医療従事者がお越しになるということは,そこで提供される情報の質について,費用以上の価値があると認識されているということの裏返しなのではないかと思います.ニュースレターを受けられている方の人数はどの位ですか.

田村 今は7,000人ぐらい受信しているのではないでしょうか.毎月増えているので,現在はもっと多いかもしれません.無理に商品を売り込むのではなく,その先生が望んでいることをきちんとお聞きして,私たちが問題解決のお手伝いができるのなら,率先してお手伝いするということに尽きます.

4. より良い製品を作るためのポイント

 ヘルシーパスは,モノづくり企業というような認識は,あまり持っていないように思います.

田村 モノは作らなければいけません.企画・開発部の皆は一生懸命考えて,良いモノを作ります.

 モノとサービスの両輪で動いている会社という印象を持ちました.

田村 そうですね.モノを作る時も,儲けようとすれば,どれだけコストを削って,どれだけ高く売るか,どれだけ宣伝広告で目立つかという話になると思います.それでは1回目は買ってもらえても後が続きません.例えば同じ値段でも,性能は断然こちらが良いという仕上がりにしておかないと永続性はありません.サプリメントであれば,費用対効果が高いということや,同じ性能でも飲む粒数はこちらの方が少ないということになります.

サプリメントは工業製品なので,最終的な設計が固まるまでに,AとBどちらにするかという分岐点が色々あるわけです.利益最大化を考える会社は,意思決定の時には,どちらの方が儲かるかということで決めていきます.私たちが決める時は,どちらの方が治療のツールとして役に立つかということで決めます.一つ一つは少しずつの差だとしても,50回繰り返せば大きな違いが生まれます.企画・開発部には,「どちらの選択が本質的に優れた製品に繋がるのかを考えて製品開発をしてください」と言っています.

 その結果コストアップに繋がったとしても,患者さんの体に負担が少なくなり,健康増進につながるものを作っていくということですね.

田村 そうです.

 原料を調達している国のリストがホームページに掲載されていて,海外も多くありました.自社工場は持たないという方針ですね.

田村 そうです.

 工場も変わっていくので,リスク回避もできますね.工場はヘルシーパス以外の複数の会社からも委託を受け,生産をしているのですか.

田村 もちろんです.工場にとって顧客は私たちだけではありません.ただ,多分,一番うるさい客だと思われていると思います.私たちが「こういうサプリメントを作りたい」と設計すると,大抵無理筋な案ができあがります.例えて言うと,つなぎ無しで,そばを打とうという感じになります.栄養素を含む原料をサプリメントにするには,つなぎである添加物を多く使えば,簡単に作れます.一方,私たちが作りたいサプリメントは,性能は高いのですが,飲む粒数はできるだけ少なくて,剤形も小さくしたいという,相反する条件を追求することになります.性能を上げると普通は粒が大きくなりますので,粒を小さくするということは矛盾します.それから,添加物はできるだけ入れたくありません.生産性の面からは便利だけれど,安全性に疑問符が付く添加物もあります.そういうものは使わずにサプリメントを作ろうという話をすると,工場側では技術の限界だということになります.

そういう困難にぶつかった際に,「そうは言っても,やってみましょう」と言うか,「無理ですね」と言うか,という所を私たちは観察します.「これは無理筋だ」と言いながらも,「ここをこうやるとできるかもれない」と,諦めずに付き合ってくれる工場も中にはあります.そういう工場を選んでいきます.

 良い関係になった工場との付き合いは長いですか.

田村 長いです.自社工場を持たない理由で一番大きいのは,固定費です.設備と,そこに人を雇ってしまいますと,そこをきちんと成り立たせるために,不本意な仕事であっても,取りに行かなければいけない状況になるかもしれません.それはやりたくありません.

 原料の購入はどうされているのですか.

田村 原料メーカーや,原料を手配してくれる商社から入手します.商品の製造の手順書や企画書があるのですけれども,私たちがリクエストした際に,きちんと記載されたものがどれだけスピーディーに出てくるかということや,試作を行って,我々が狙っただけの性能があるものなのかということを見て決めていきます.

 生産の委託工場はどちらにありますか.

田村 あちらこちらにあります.静岡県内にもあるし,富山県,山梨県,岐阜県,大阪府にもあります.それぞれ,どのような形のサプリメントが得意かということがあります.ですから,一番得意な所に仕事を出します.それから,災害が多い国ですから,1カ所でしか作れないと,大雨や地震でその工場が駄目になると供給が止まるので,そこは複線化するようにしています.

 同じ種類のサプリメントをいくつかの場所で作るのですね.

田村 他でも作ることができるようにしています.自社工場を持たないということには,その部分もあります.

5. どのように企業価値を届けるのか

 サプリメント販売を委託する先として,大きく医師と歯科医師がおられると思うのですが,歯科医師に浸透するのが早かったように私には見えるのですけれども,そのようなことはないですか.

田村 普及の速さは認識していませんが,数としては歯科医師の方が,サプリメントのクライアントが多いです.診療科で言うと,4割が歯科です.

 歯科医師の中でも本当に患者さんを良くしたい,口腔から健康管理をしたいという人達と組んでいるというということですね.

田村 そうですね.歯科医師の場合は,やはり歯ブラシを売っている経験があるので,サプリメントも同じように売ることができるだろうと思っている方,それから歯医者は経営的に厳しい所も少なくないので,売り上げの底上げにしたいとお考えのことも多いようです.

 最初だけ付き合って天秤に掛けて,もっと利益率の良い方に走ってしまう,という場合もあるのではないかと思うのですが.

田村 そうした方もいるかもしれません.歯科医師からサプリメントを使いたいと言われた時に,こちらからお断りすることはありません.ただし,利益を取ろう,物売りをしようという意図が先行すると,逆にうまくいかないことが多いようです.

 売りたい気持ちが先走ると,商品の良さを伝えられず,結果として販売も落ちるということですね.

田村 その製品が持っている本当の価値を伝えられなくなってしまうのです.「サプリメントを売ろう」とすると,サプリメントを販売する店との競争になってしまうのです.サプリメント販売店の方が売り方やポップなどの工夫は上手です.しかし,本当にその製品が持っている価値を患者さんに伝えることができて,患者さんの腑に落ちれば,歯科医院でもちゃんと買ってもらえます.歯科医院に来る人は,歯にトラブルのある方々ですから,きちんと噛んで食べることができないことが多い.ですから食事が偏るし,栄養状態は良くないのです.

 歯科医院に来られる患者さんには,サプリメントの効果を実感しやすい人が多いということですね.

田村 歯ブラシでもサプリメントでも同じだと思うのですが,患者さんが自分で店に行って選ぶのは意外にハードルが高いのです.ですから,プロの目で,「あなたの口の中の状況から判断するとこれが良く,これを使えば口の中の健康が維持できて,毎日美味しくご飯が食べられるようになります」と、その歯ブラシの価値を伝えることができれば良いのです.「大規模な小売店や,ネット通販で買っても良いけれども,これがあなたのお口のケアのためには一番良いですよ」という言い方をすれば良いのです.

 推奨する側が,本当にその人の体のことを考えて言っているのかどうかで,その商品の価値が伝わるかも決まるということですね.

田村 そうです.医療サービスの提供者が真摯にその患者さんの健康を考え,自信を持って商品の価値を語れば良いのです.患者さんは,そのドクターのことを信頼して,治して欲しくて来ている人達です.そういう人達の信頼に応えているという自負を持って,推奨して頂ければ,サプリメントの価値が患者さんに伝わると思います.医療従事者もヘルシーパスも,患者さんの健康を願っているということが伝われば,製品の良さもきっと伝わると思っています.

6. おわりに

最後に,田村社長へのインタビューから得られるサービス研究への示唆について考えることで,この稿の結びとしたい.前述したように,ヘルシーパスの企業目的は,患者さんの健康状態の向上である.田村氏のご自身の著書の中でも主張されていることであるが,健康維持に大切なのは,本来的には健康的な食生活,適度な運動である(田村 2015).ヘルシーパスのサプリメントは,患者さんがより早く,より良い健康状態に回復する助けとなるために存在している.そのため,ヘルシーパスは,自社の製品がただ売れれば良いとは考えていない.患者さんが最も効果的に自社のサプリメントの効果を享受できるようにするには如何したら良いかを考えた結果が,「ヘルシーパスが信頼を置く医療機関で診療を受けた患者さん,あるいは紹介を受けた患者さんに販売先を限定する」ということだったのである.これは,売り上げだけを考えれば,非効率と言われてしまうかもしれないが,ヘルシーパスの商品の価値を顧客に伝えるためには必要なことだったと言えよう.

もう一つのヘルシーパスのビジネスの特徴は,モノづくり企業でありながら,サービスを提供することが,顧客との信頼の鍵になっていることである.医療機関向けのメールマガジンの発行や講演会の開催を積極的に行っていることがそれに当たる.このようなメールマガジンや講演会が,直接的にヘルシーパスの商品開発や改良に役立つという面や,ヘルシーパスの商品を取り扱う医療機関の拡大に貢献するという部分ももちろんあるが,より重要な点は,そうした医療従事者に,ヘルシーパスの商品が,患者さんの健康増進にどれだけ貢献するかを伝える,換言すればヘルシーパスの企業価値を届けることに貢献していることであろう.

ヘルシーパスのサプリメントは医療サービスの提供と一体化することで価値が生まれており,また,ヘルシーパスのメールマガジンや講演会といったサービスは,ヘルシーパスと医療機関との信頼構築に貢献していることを考えると,ヘルシーパスというサプリメント製造企業が,サービスと分かち難く結びついていることがわかる.モノづくりとサービスの結びつきに目を向けることで,サービス研究のさらなる深化が期待できるのではないだろうか.

識者紹介

  • 田村 忠司

株式会社ヘルシーパス 代表取締役社長.1988年,東京大学工学部産業機械工学科卒業.株式会社リクルートを経て1998年,日研フード株式会社入社.取締役経営企画室長,サプリメント製造子会社代表取締役社長などを歴任後,2006年より現職.

著者紹介

  • 秦 洋二

流通科学大学商学部教授.2009年九州大学大学院人文科学府歴史空間論専攻地理学分野地理学専修博士課程修了,博士(文学).専門は流通システム論,経済地理学.著書『日本の出版物流通システム-取次と書店の関係から読み解く-』(九州大学出版会)など.

参考文献
  •   田村忠司(2015).「これ」を食べればサプリはいらない,東洋経済新報社.
 
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