環境科学会誌
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シンポジウム論文
北海道北部の天然林生態系における窒素循環プロセスの特性
柴田 英昭福澤 加里部
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2010 年 23 巻 4 号 p. 277-283

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抄録

北海道北部の天然林生態系における窒素循環について,北海道大学研究林における事例研究から,その特徴や課題について論じた。北海道北部は大気汚染の影響が比較的小さく,大気沈着で森林に供給された窒素のほとんどは森林生態系内部に保持されている。土壌から河川への窒素溶脱については,生物活性が低く,大量の融雪水が供給される融雪期に年間の約6割に相当する窒素が溶脱していた。15Nをトレーサーとした室内培養実験の結果から,土壌表層に生息する土壌微生物による速やかな窒素有機化は,生態系の窒素保持メカニズムとしてとくに重要であった。一方,掻き起こし施業における植生や表土の除去により,植生による窒素吸収の停止,土壌微生物による硝化の促進,窒素有機化低下の結果として,土壌から下層への硝酸態窒素の溶脱ポテンシャルが増加することが示された。しかしながら,流域レベルでの樹木伐採に対しては,林床植生として残存したササが細根バイオマスを増やし,養分吸収することによって土壌から河川への硝酸態窒素の溶脱を軽減する役割を果たしていた。また,北海道北部の森林地帯は地形が比較的緩やかであり,河川近傍には河畔帯が広がりやすい特徴を有している。そのため,生態系の窒素循環プロセスの結果として生成される河川水質に対し,河畔部での脱窒や養分吸収が大きく影響していた。以上のことから,北海道北部の天然林生態系において,さまざまな環境変動に対する窒素循環プロセスの変化や応答を理解するためには,多雪寒冷である気候特性をはじめとして,樹木やササ,土壌微生物による生物コントロール,流域内の土壌分布や河畔帯での窒素保持を含めた地形水文コントロールを含んだ評価やモデルを発展させることが重要である。

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© 2010 社団法人 環境科学会
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