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環境科学会誌
Vol. 30 (2017) No. 2 p. 141-149

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http://doi.org/10.11353/sesj.30.141

特集

効率的に,つまり経済全体の削減費用を最小化する形でCO2を削減するには排出源(企業)の間で削減の限界費用を均等化させる必要がある。排出量取引においてそれを実現するには全ての部門を対象として排出枠の取引をおこなわせる必要があるが,現実の排出量取引では対象を一部の部門に限定していることが多い。本研究の第一の目的は,排出量取引の対象を一部の部門に限定することによって排出規制の効率性が実際にどの程度損なわれるかを定量的に分析することである。海外では排出量取引が主要な排出規制の手法として利用されている国が多いが,日本では排出量取引のようなトップダウン型の規制より企業の自主的な行動による削減が好まれる傾向がある。しかし,自主的な行動による削減は限界削減費用の均等化を達成するものではないため,やはり経済全体を対象とした排出量取引より効率性が劣ると考えられる。本研究の第二の目的は排出量取引と自主的な削減の効率性を比較することである。分析には日本を対象とした多部門の応用一般均衡モデルによるシミュレーションを利用している。主な分析の結果は以下の通りである。まず,排出量取引の部門を限定することで,場合によっては排出規制の効率性がかなり悪化することがわかった。特に,電力部門のみに限定するケースでは全部門を対象とするケースよりGDPや消費の減少率が2倍程度に拡大した。第二に,全部門を対象とした排出量取引と企業の自主的な削減を比較するとやはり後者の方が効率性は劣ることになった。今後,どのような手段を用いてCO2を削減していくかは重要な課題であるが,本研究の分析は部門間での限界費用の乖離につながるような仕組みを選択することで,排出規制の効率性が大きく損なわれる可能性があることを示唆している。

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