環境科学会誌
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一般論文
多摩川源流域における土地被覆の履歴から推計した年蒸発散量の過去100年間の推移
佐藤 博紀橘 隆一下嶋 聖泉 桂子福永 健司
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2018 年 31 巻 4 号 p. 148-163

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抄録

東京都の水瓶である多摩川流域では,気象・水文観測が長期間計測されていることもあり,気象学的手法あるいは水収支法により蒸発散量が推定されてきた。しかし,森林の生育状況や立地環境,気象条件を流域内で区分して蒸発散量を求めた例はない。一方で,水循環基本法(2015年制定)などの法整備により,将来にわたる水資源の定量化が求められている。そこで,本研究は東京都水道局が観測した多摩川水道水源林の99年間(1914~2012年)にわたる水文・気象資料と旧版地形図と衛星画像により作成した6時期の土地被覆図を用いて,土地被覆の履歴から多摩川源流域内の広域蒸発散量を推定した。その結果,土地被覆分類では1910年に88.2%であった森林面積が2009年には96.0%と1.1倍の微増を示した。一方で,荒地面積は10.9%から0.6%と18分の1に減少した。流域の年蒸発散量は年平均(1914~2012年)635 mmとなり,日本の森林の標準的な年蒸発散量600~900 mm(1986~1989年平均)の範囲内の値となった。また,1957年以降は年平均(1957~1989年平均)気温の上昇や年平均相対湿度の低下,森林面積の増加により年蒸発散量が増加する傾向がみられた。年降水量から年蒸発散量を差し引いた値を年流出量とし,実際の年流出量と比較するとほぼ同じ変動を示したが,全体的に実測値よりも低い値となった。これは,伐採面積や新植面積の影響を加味しなかったことが原因と考えられた。また,過去100年間にわたる月平均蒸発散量の年間変動の結果から,今後さらに常緑針葉樹の面積割合が増加した場合,蒸発散量の季節変動は小さくなりつつ,年蒸発散量は増加していくことが示唆された。

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