2021 年 34 巻 4 号 p. 196-207
近年,気候変動に伴って日本各地で土砂災害や豪雨災害が頻発している。災害の被害を抑えるためには,ハード・ソフト両面の防災政策のほか,住民がその土地の災害リスクを認識することが不可欠である。また,災害は繰り返し発生することから,過去の被災経験をもとに防災意識を高めていくことも大切である。そこで,本研究では直近6年間で2014年の平成26年8月豪雨と2018年の平成30年7月豪雨の2度にわたる土砂災害を経験した広島市に注目した。広島は山間部の表層地質が花崗岩で構成され,市街地の地形が三角州となっていることから,土砂災害・洪水が繰り返し発生しやすい。そのため,住民が各種災害に対して高い意識を持っておく必要がある。そこで,直近2度の土砂災害の被災前に災害リスク認識は形成されていたか,2度の土砂災害の前後で災害リスク認識に変化がみられるか,広島市の国土交通省地価公示とハザードマップのデータからヘドニック・アプローチと差の差分析を用いて実証分析を行った。その結果,災害前には土石流・洪水のリスク認識は形成されておらず,津波のリスク認識が形成されていたことが明らかになった。また,災害後には,災害前と比較して土石流危険地域で地価が有意に下落し,津波危険区域では地価が有意に上昇したことが明らかになった。すなわち,2度の大規模土砂災害の後,新たに土石流のリスク認識が形成され,津波のリスク認識が薄まったことが明らかになった。