環境科学会誌
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一般論文
東京都の業務部門における2030年までの温室効果ガス排出量半減の達成シナリオの分析
片野 博明 増井 利彦
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2023 年 36 巻 3 号 p. 94-108

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抄録

東京都の業務部門を対象に,地球温暖化対策計画で想定されている2030年度の温室効果ガス排出削減目標(2013年度比51%減)を達成するために必要な対策を明らかにすることを目的として,ボトムアップ型のエネルギーモデルであるAIMエンドユースモデルを適用し,複数のCO2排出削減対策を実施した際の温室効果ガス排出量を推計した。その結果,炭素税や補助金,LED照明の普及促進策,電力のCO2排出係数の改善等の対策を組み合わせることで,目標達成が可能であることが示された。エネルギー消費機器の普及率に着目すると,LED照明の普及率が80%以上に進展し,冷暖房機器の電化が大幅に進むことで,目標を達成する結果となった。なお,LED照明の普及率を80%以上とするには,一部の照明機器を,耐用年数を迎える前にLED照明に更新する必要があるため,LED照明の普及を加速させる規制等が必要である。さらに,エネルギー消費機器を選択する際には,ロックイン問題が存在し,ガス冷暖房機器から電気冷暖房機器への転換が妨げられる可能性があるため,実状に応じて,電化を促進する規制や補助金等の政策手段が必要になると考えられる。また,今後,電力・電子機器を中心に機器保有台数の増加,新規機器の導入が想定されるが,それらのエネルギー消費量をいかに抑えるかが,目標達成に向けて,非常に大きな課題である。以上のことから,排出削減目標を達成するためには,機器の効率化・電化の促進といったエネルギー需要側の対策及び電力のCO2排出係数の改善といったエネルギー供給側の対策,その両面の対策が必要であることが示唆された。

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