日本における水にまつわるリスクは,全般的に改善してきたように見えるが,水に関するインフラ施設の維持管理などの課題は依然として残っている。社会全体で水インフラを支えていくには,コミュニティの構成員一人一人の水への意識を高める必要性があるが,水に対して抱く価値は多様である。人々が水に対して抱く価値観を明らかにすることは,目指すべき社会像を共有し,水環境の科学を進めるうえでの基盤となるものであるが,これまで十分には議論されてこなかった。
そこで,本稿では,環境科学会2024年年会で企画された「水から人々の暮らしと価値観を探る—私たちはどのような水環境を目指すべきか—」のシンポジウムにおける6編の報告と総合討論を紹介する。
各報告は,上下水道,治水,農業水利システムと多岐にわたるインフラを対象とし,古代と近代の水管理に関する歴史研究から将来課題に向けた研究までを包含し,学際性と多様性の高いものであった。一方で,各報告からは,共通的な「人々が水に対して抱く価値観」が確認された。
第一に,分配的公正性と手続き公正性といった社会的公正性を担保することが,水への価値観として重要な基盤の一つであるとの認識が示された。災害時には公正な水利用が特に脅かされ,多元的な水供給と情報の共有が必要であると示された。第二に,コミュニティの人々が一体となって水システムに関わることが,水インフラの維持と継承において重要な役割を果たすと考えられた。
個別コミュニティとしての価値からマクロレベルでの社会的価値の共有まで,人々が抱く水への価値観を見える化し,実現するための方法論を整備し,知見を実装することが重要であると考えられた。