抄録
地球温暖化による世界の自然植生分布の変化は,大気大循環モデルによる大気中のCO,濃度倍増時の平衡実験の結果から将来の気候帯の変化を推定し,生物気候学の分類と結び付けることによって予測されてきたが,平衡状態における分布予測であり,気候変化に対する自然植生の現時点から将来への漸次的な適応は考慮されてこなかった。そこで,本研究では森林植生に焦点をあて,平衡状態における世界の潜在的自然植生分布変化の予測と過去の気候変動時における樹木種の移動速度を組み合わせることにより,気候変化への森林植生の適応を取り入れたシミュレーションモデルを開発し,2100年における世界の森林植生への影響予測を試みた。その結果は従来の予測結果とは大幅に異なり,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)IS92c,IS92a,IS92eの3シナリオで温室効果ガスが排出される場合には,2100年までに世界の全陸地面積の2%から9%の地域で森林が消失し,3%から12%の地域で森林の枯死の危険をともなう樹木種の変化が起こり,それらの地域はユーラシア大陸北部と北米大陸に集中することが示された。また,それらの地域の森林について2100年における経済的価値の損失額を試算し,森林の消滅により年間500億ドル(1994US$)から2200億ドルの損失が発生し,非平衡状態の森林が枯死する極端なケースを想定する場合には,年間1070億ドルから5860億ドルの損失が発生することを推計した。