東アジア地域は,急速な工業化に伴い二酸化硫黄による酸性雨問題が深刻化しつつあり,特に,韓国と中国における二酸化硫黄の排出抑制が緊急課題となっている。本研究では,エネルギー経済モデルを用いて,これら両国にいつの時点で,どの程度の排煙脱硫投資がなされるかを明らかにした。 二酸化硫黄排出の低減は,排煙脱硫投資,燃料の低硫黄化,省エネルギー,生産構成の変化により達成される。これらの効果のメカニズムが再現できるように,非線形の動学的最適化モデルであるGlobal2100に一部改良を加えて,日韓中の各国のモデルを構築した。 日本について,過去における二酸化硫黄排出量の値を制約条件にして最適化計算を行うと排煙脱硫投資の計算値が実績値とほぼ合致する結果が得られた。これは,日本の過去における脱硫投資が経済的にみても合理的あることを示唆している。日本の過去の分析から得られたシャドープライスを,一人当たりのGDPとの関係で定式化し,これを韓国と中国のモデルに適用して,最も経済合理的な投資額を予測した。今まで本格的な排煙脱硫投資が行われていない韓国では,1992年頃からこの種の自発的な投資があってもよいことになる。一方,中国では,2014年頃まで自発的な排煙脱硫投資が期待できないと予想され,今後,わが国を含めて国際的な支援が必要である。