抄録
矯正歯科や小児歯科の臨床において, 口呼吸や舌突出癖などの口腔習癖が上顎前突や開咬の不正咬合を引き起こす要因になると考えられている.それらの口腔習癖を治療する方法として, 口腔筋機能療法 (MFT: Myofunctional Therapy) が行われている.
MFTにおける口唇トレーニング法としては口唇を閉鎖してボタンを牽引するボタンプルや口腔リハビリ器具のパタカラなどを用いる方法が挙げられる.しかし, 口輪筋の筋力, 持久力の強化に対するトレーニングの効果を客観的に評価している研究は少ない.
これまでの我々の研究で, 近赤外線分光法を用いて口輪筋の酸素化動態を計測することにより, 1-RM (1 time repetition maximum) の80%の荷重を5秒間負荷し, 5秒間安静にすることを5~10回繰り返すことは, 口輪筋が低酸素状態になり, 口輪筋の筋力強化のトレーニングに適している可能性を示唆した.また, 1-RMの50%荷重の負荷5秒間と安静5秒間を15回以上繰り返すことにより口輪筋の有酸素状態が維持され筋持久力が向上される可能性を示唆した.そこで本研究では, 口輪筋トレーニングにおいて低酸素状態での筋力強化と有酸素状態での持久力向上による効果を検証することを目的とした.
被験者として顎口腔機能に異常が認められず口唇閉鎖不全のない成人15人の男女を用いた, 牽引用プレートを上下口腔前庭部に挿入し, 万能試験機で牽引し1-RMを計測した.トレーニングの際には, 被験者を1-RMの50%荷重5秒間の負荷・5秒間の安静を1回として20回 (A群) , 1-RMの80%荷重5回 (B群) , 1-RMの50%荷重5回 (C群) の3群に分け, それぞれ14日後, 28日後の口輪筋の最大引っ張り力および持続時間を計測した.その結果より口輪筋のトレーニングを行うためには, 筋力強化を目的とするなら1-RMの80%荷重5回, 持久力トレーニングを目的とするならば1-RMの50%荷重20回の反復負荷がそれぞれ有効であることが明らかとなった.