社会学研究
Online ISSN : 2436-5688
Print ISSN : 0559-7099
論説
過去の経験が高齢期の社会的排除に与える影響
人生序盤の困難が生み出す長期的なリスクに着目して
百瀬 由璃絵
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キーワード: 社会的排除, 高齢者, リスク
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2021 年 106 巻 p. 103-128

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抄録

 日本の高齢者は貧困のみならず孤立も危惧されているが、貧困と孤立が同時に発生する動態的な社会的排除の様相と要因を捉える国内研究は十分にない。そこで本稿では、貧困と孤立が同時かつ持続的に生じる社会的排除の様相を捉え、過去の経験が高齢期の社会的排除に与える影響を検討した。データには「全国高齢者パネル調査」を用いて、二つの分析を行った。第一に、高齢期に貧困と孤立が同時に発生する変化のパターンを捉えるために、パネルデータを使って潜在クラス分析を行った。その結果、「持続的な貧困・孤立なし」、貧困状態が継続する「持続的な貧困」、貧困と孤立が同時に継続する「持続的な社会的排除」の三クラスに分かれた。第二に、高齢者が社会的排除に陥る要因を検討するために、多項ロジスティック回帰分析をした。特に、人生序盤の困難である病気・貧困が生み出す長期的なリスクに着目し、本人の経験のみならず、幼少期の親の状況を踏まえて分析した。その結果、一八歳までに親が酒や薬の依存症であった経験は高齢期の「持続的な社会的排除」に影響を与えていたが、人生序盤の経験は「持続的な貧困」に影響を与えていなかった。つまり、「持続的な社会的排除」と「持続的な貧困」は、異なる要因が影響することが確認された。このことから、依存症の親のサポートが、子どもの長期的なリスクを軽減させる上でも重要であることを指摘できた。

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© 2021 東北社会学研究会
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