事故や犯罪事件における目撃記憶の研究は多数行われているものの、車に関する目撃記憶の検討はきわめて少ない。本研究では、車そのものの記憶と遭遇場所の記憶に関する性差を検討した。大学生の参加者(女性64名と男性64名)には2つの場所のどちらか1つの場所にある車の写真を視覚的に呈示した。その際、統制群は車だけを記憶するように教示したのに対して、実験群は車と場所の両方を記憶するように教示した。すべての写真の提示後、(背景の場所のない)最初の呈示の際の車体(ターゲット)と、異なる車体(ディストラクタ)の2肢強制選択再認テストを行った。引き続き、最初の呈示の際の背景の場所と車体(ターゲット)と、背景の場所だけが異なる車体(ディストラクタ)の2肢強制選択再認テストを行った。実験の結果、車体そのものの記憶は遭遇場所の記憶より優れていることが明らかとなった(ただし、車体そのものの記憶は女性より男性の方が優れていた)。また、遭遇場所も記憶するという意図を持つことによって、性別に関わりなく、車の遭遇場所の記憶も向上することが明らかとなった。これらの結果に関して、ソースモニタリングの枠組みから解釈を行うと同時に、えん罪の原因の一つである無意識的転移と呼ばれる問題点との関連を述べることで、本研究の実践的な示唆について述べた。