人間環境学研究
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原著
市民の司法参加に対する反対と理性・感情に基づく理解の枠組み
日本の裁判員制度に対する市民の態度に関する実証的研究
谷辺 哲史白岩 祐子唐沢 かおり
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2016 年 14 巻 1 号 p. 9-16

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抄録

裁判員制度は市民の司法参加の一つとして2009年に導入された制度である。しかし、この制度は「市民参加は理性的な意思決定の妨げになる」「裁判員は被害者に同情し、偏った判断をするおそれがある」といった批判を受けていた。本研究では裁判員制度に対する人々の態度の規定因を実証的に検討し、「裁判は感情の影響を受けず理性的に行われるべきだ」という考え(理性的裁判イメージ)を強く持つ人ほど裁判員制度に反対することを示した。人は理性と感情を対立的に捉える素朴な理解の枠組みを持っていることが指摘されているが、本研究はこのような理解の枠組みが司法制度に対する態度に関連することを明らかにした。さらに、「市民の感覚を裁判に反映する」という裁判員制度の導入目的を参加者に教示すると、上述の理性的裁判イメージと裁判員制度への賛否の関連が消失した。この結果は、制度に関する情報を提供することで人々の態度が肯定的に変化する可能性を示している。多くの市民が司法参加に否定的な態度を示している現状を踏まえると、市民の積極的な司法参加を促し、裁判員制度の円滑な運用を実現する上で本研究の知見は重要な意味を持つだろう。最後に、本研究の知見を外国の司法制度に適用できる可能性、および本研究の限界について議論した。

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© 2016 人間環境学研究会

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