史学雑誌
Online ISSN : 2424-2616
Print ISSN : 0018-2478
ISSN-L : 0018-2478
明治後期の川崎造船所における外国発注艦建造問題に関する一考察
賀 申杰
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 126 巻 7 号 p. 37-59

詳細
抄録

明治後期の民間造船企業、とりわけ川崎造船所の飛躍的な成長の要因について、従来の研究は、「軍需」、「民需」の二つの観点からの説明がなされてきた。しかし、明治三〇年代以降における川崎造船所の艦船建造実績から見ると、同所の経営状況や、利益獲得の方途について検討するとき、一般商船および日本海軍艦艇の建造以外に、外国発注艦の建造の実態について検討しなければならない。本稿は川崎造船所と注文国政府の双方の視点から、海外に対する艦艇輸出の交渉過程について分析を加えた上、①川崎造船所が艦艇の輸出を通じて獲得した利益の状況、②艦艇建造の点で技術と経験が未熟であった川崎造船所が、外国によって艦艇購入先として選定された理由、③艦艇の輸出における外務省と海軍の役割、という三つの視点から、川崎造船所の艦艇輸出の特徴を検討する。
明治後期において、輸出した艦艇の数と価格両方を考慮すると、川崎造船所は艦艇の輸出を通じて得た利益が無視できない。同時期、川崎造船所の成長と利益獲得につき、先行研究が提示した「民需」、「軍需」の二つの視点のほか、本研究は「輸出」の新しい視点を加えたいのである。また、川崎造船所が海外から多くの艦艇発注を受けることに成功した要因について筆者は、注文国の政治情勢、川崎造船所の積極的な海外進出策と政府からの支援(特に海軍側と外務省)にあると見ている。
今回の川崎造船所の艦艇輸出問題の検討から見ると、主力艦の国産化時代以前の新たな武器の移転ルートを提示した。川崎造船所はまず高値で小型の艦艇を海外に輸出し、この輸出を通じて建造経験と経済的利益を蓄積し、さらに大型艦建造に相応しい造船施設を拡充した。一連の造船設備と技術の整備を通じて明治末期にようやく主力艦の国産化を実現した。

著者関連情報
© 2017 公益財団法人 史学会
前の記事
feedback
Top