2007 年 50 巻 6 号 p. 705-712
アディポネクチンは脂肪細胞に特異的に発現しているホルモンで,アディポネクチン受容体1(AR1)および2(AR2)を介して,血糖値の調節に重要な役割を果たすことで知られている.近年,アディポネクチンが初代培養骨芽細胞にも発現し,その増殖や分化を促進することが報告された.そこで本研究では,アディポネクチンの歯髄保存療法剤としての有用性を調べるうえで,象牙芽細胞前駆細胞(MDPC-23)におけるアディポネクチンの機能を検討した.アディポネクチン,AR1とAR2のいずれの発現もMDPC-23において認められた.培地中へのアディポネクチン(10μg/ml)添加によりMDPC-23の細胞増殖およびアルカリホスファターゼ(ALP)活性はコントロールに比べて有意に促進され,また骨形成関連遺伝子であるオステオカルシン(OCN)やオステオポンチン(OPN)の発現の増加が認められた.さらに,アディポネクチン(10μg/ml)添加により8日後の石灰化結節の形成も有意に促進された.アディポネクチンによるALP活性促進作用は,mitogen-activated protein(MAP)キナーゼ阻害剤であるSB20358やSP600125の前処理により抑制されたことから,p38とJNKのシグナル伝達系が関与することが明らかとなった.以上の知見より,アディポネクチンはMAPキナーゼカスケードを介してMDPC-23の象牙芽細胞への分化を亢進する働きがあり,歯髄保存療法剤として応用できる可能性が示唆された.