日本歯科保存学雑誌
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原著
リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)配合ガム咀嚼後のエナメル質初期う蝕の再石灰化効果および結晶構造の変化
田中 美由紀北迫 勇一二階堂 徹半場 秀典池田 正臣田中 智子滝井 寛釜阪 寛田上 順次
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2009 年 52 巻 6 号 p. 534-542

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抄録

馬鈴薯デンプンより酵素処理した分解物から抽出されたリン酸化オリゴ糖カルシウム(Phosphoryl Oligosaccharides of Calcium,以下,POs-Ca)は,水溶性がきわめて高く,デンタルガム(ポスカ®,江崎グリコ)の再石灰化促進成分として配合利用されている.POs-Caは,in vitroにおいて,う蝕原性細菌であるミュータンスレンサ球菌の栄養源にならないこと,ショ糖の発酵によるプラーク内pH値の低下を抑制すること,エナメル質初期う蝕の再石灰化を促進することが報告されている.しかし,実際の口腔内環境下におけるPOs-Caの再石灰化効果についての報告は少なく,特に,下顎臼歯頬側への口腔内装置装着での再石灰化効果および再石灰化部の微細構造変化に関する報告はない.そこで本実験では,ヒト口腔内環境下における再石灰化効果および微細結晶構造変化を明らかにするために,POs-Ca配合ガムならびに口腔内装置を用いた群間並行臨床試験を実施し,Transversal Microradiography(以下,TMR)法を用いて観察し,その再石灰化効果について定量的に評価するとともに,高輝度エックス線を用いてハイドロキシアパタイト結晶量の定量的な変化およびその配向性を測定し,再石灰化前後におけるエナメル質初期う蝕のミネラル量変化と微細結晶構造変化について検討を加えた.被験者20名に,エナメル質初期う蝕サンプルを取り付けた口腔内装置を装着した状態で,1粒あたりPOs-Caを2.5%配合したガムまたは非配合のガムを1回2粒,1日3回,14日間摂取させた.ミネラル量の変化についてはTMR法を,ハイドロキシアパタイト結晶量の変化については,広角エックス線を用いて解析し,得られたデータはt検定を用いて危険率5%にて検定を行った.その結果,POs-Ca配合ガム摂取群では,POs-Ca非配合ガム摂取群に比べ有意に高いミネラル密度の回復が認められ,また,POs-Ca配合ガム摂取群はPOs-Ca非配合ガム摂取群に比べ有意に高い結晶量の回復が認められた.さらに,ハイドロキシアパタイト結晶量の回復した部位において,健全部と同じ配向性を有した部位が認められた.以上より,ヒト口腔内環境下において,POs-Ca配合ガムを摂取することで,エナメル質初期う蝕の再石灰化が促進されることが示唆された.また,その再石灰化は安定したハイドロキシアパタイト結晶の形成によるものと推察された.これにより,POs-Ca配合ガム摂取を行うことは,エナメル質初期う蝕における再石灰化レベルを,配向性の整ったハイドロキシアパタイトの再結晶化まで引き上げ,より健全歯質に近接した状態まで回復することが期待され,食生活習慣から介入可能なセルフケアの一手法として有効であると考えられた.

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© 2009 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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